小川和也さん&ピンク・スバル Part3
インタビュー&構成:徳橋功
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Kazuya Ogawa & Pink Subaru
映画監督
「その時、その場所で感じたこと」を撮る。それはずっと変わりません。
イスラエルとパレスチナを舞台に描かれたコメディー映画『ピンク・スバル』を制作した若き映像作家、小川和也さんとのインタビューをお送りしています。最後の第3部は紛争地域でコメディーを撮る小川さん独自の視点や発想法についてお伝えします。
*インタビュー@表参道 (by 徳橋功 & 並木麻衣)
*『ピンク・スバル』公式サイト: こちら
*英語版はこちらから!
(Part2からの続き)
小川さんは、イタリアに行く前はニューヨークで映画を勉強していた、ということですが・・・
ちょうどその当時に、9.11のテロに遭遇しました。その時はテレビニュースを見て、見て、見尽くしました。そしてパッタリと見なくなりました。当時はツイッターやFacebookなんて無かったし、ブログすら一般的でない時代でしたから、一般の人がどのようにこの事件を受け止めているか、そちらの方をむしろ知りたいという欲望にかられました。大メディアが流す情報よりも、自分の周りの人の声に耳を傾けたいと思ったんです。それで、彼らの声を集めて、そこにフィクションの要素を加えて短編映画を1本作りました。
僕が撮りたいものは、基本的に「その時、その場所で感じたこと」。それは9.11の前も今も変わりません。
この映画は、まさにそれが花開いたということではないでしょうか。
そうですね。日常というテーマに限らず、例えばここにある箱を見て、箱の裏にもっと美しいデザインが施されているかもしれない、と思う質です。箱の表面がどんなに美しいデザインでも「もしかしたら、裏はもっと美しいかも」と思う性格なんです。そういう素地は、元々あったと思います。悪く言えば天の邪鬼なんでしょうけどね。
写真右:小川和也監督 写真左:田中啓介プロデューサー
撮影:並木麻衣
<徳橋> 例えば目の前に宝があって、みんなそこにワーッと押し寄せて行く。でも小川さんは、誰かがポトッと落とした宝石に自分だけ気づいて「きれいだな」って言っている。そんな感じかもしれませんね。
<並木> 私の周りでも、パレスチナ支援の活動をしている人たちはいます。でも、ただ声高に支援を叫ぶだけでは、人はついてきません。一方で何とか周りへの理解を求めるためにイベントなどいろいろしている人がいますが、それでもまだ小さい広がりに留まっています。でもパレスチナとはそれまで無縁だった人が「こんな一面もあるんじゃないの?」と言った瞬間に、支援への動きが加速するのでは、と期待しているんです。
<徳橋> しかも多くのメディアにも取り上げられ、しかも映画のポスターはオシャレですね。それはやはり、切り口がユニークだったからかな、と思うんです。
「ピンク・スバル」というタイトルは、結構初めのうちから決まっていたんですよ。アラブの男性にとってピンクって、すごく恥ずかしいじゃないですか。それが基本にあるバックグラウンドなんですけど、何より先に「これは恐い映画じゃないんだよ」ということをタイトルで示したかったんです。
タイトルからだと、それがパレスチナを扱った映画かどうかも分からないほどです。
だから変な話、パキスタンのことを扱った映画だと思われても良いんです。どっちにしろ「戦争が行われている国の話なんだよね?」って何となく思ってくれるだけでもいい。それでタイトルが「ピンク・スバル」だと、”戦争”とのコントラストが生まれるじゃないですか。
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僕は映画を見て、パレスチナに行きたくなりました。もしあのような日常が流れているなら・・・例えばスバルのディーラーの店員さんがユダヤ人であることも、僕は分かりませんでした。主人公とその妹(いずれもパレスチナ人)が、店員さんとすごく親しそうに話していましたから。 でも店員さんが「アラブ式の結婚式に出席するのは初めて」って言ったのを聞いて「あ、この人はユダヤ人なんだ」って初めて分かりました。なぜなら僕はヘブライ語とアラビア語の違いが分かりませんから。 でも、あのような光景は普通にあるんですね?
<並木> あります。
<小川> 中には嫌う人もいますが、宗教や人種の違いを越えて親しく付き合っているイスラエル人とパレスチナ人を、僕はたくさん知っています。
だとしたら、僕はパレスチナに行ってみたいです。
もし行く場合は、現地をよく知っている人と一緒に行くべきです。それは危険だからではなく、旅行のコツを知っている人と行った方が何かと便利、という意味です。そしてもしイスラエルに行ったら、絶対にパレスチナにも行かれることをお勧めします。そうなるとなおさら、観光ガイドではなく現地を知っている友達と一緒に行った方が楽しめます。
<並木> 私もかつて現地で、日本人相手にツアーガイドをしていたことがあります。難民キャンプなどに連れて行きましたが、私はそこで彼らに「案外普通だ」って思ってほしかったんです。小川監督も皆さんに現地に行ってほしいって思いませんか?
思いますね。行って、楽しんで、友達を作って、帰ってきてほしいです。
この映画が、そのきっかけになるかもしれませんね。僕が「行きたい」と思ったように。
でも、例えばイスラエル側からタイベに直接タクシーで行こうと思うのなら「それは止めた方がいい」と僕は言います。それはテロの危険があるとかではなく、”イスラエルの中のパレスチナ人の町”という特殊な場所だからです。町の人からすれば「何しに来たんだ」と考えるでしょう。でも、もしタイベに一人でも友達がいたら、町の人全員と友達になれます。0か100です。
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小川さんは「映画は世界を変えることができる」と思いますか?
<小川> もちろんです。
<田中> 映画はテレビと違ってトランスワールド、つまり世界に広がっていくメディアだと思いますから。日本のテレビドラマが世界中で放送されるか、と言えばそうではありませんが、映画だと全世界で上映される可能性があるんです。
僕たちの夢は、僕らが作った映画が僕らの行ったこともないような国の小さな村の小さな劇場で流れていることです。
<小川> それに、映画って残りますしね。優れた映画であれば100年後に鑑賞されてもおかしくありませんから。あと、映画ってひとつの「世界」じゃないですか。たくさんの人間が作ったひとつの世界に、観客も入っていける。ということは映画を見ただけでなく「経験した」ということになるんです。お客さんが「経験」できる映画って、一番優れた映画だと思うんですよね。
<田中> この「ピンク・スバル」でも、お客様の中には「自分の知らない国を体験できた」とおっしゃってくれた方もいます。それを考えると、チケット代も安いものかな(笑)
現地で上映されるんですか?
これからです。タイベの人もまだこの映画を見ていませんから、是非見てほしいです。
最後にお聞きします。小川監督にとって、映画とは何ですか?
「Experience(体験)」です!
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小川さん関連リンク
『ピンク・スバル』公式サイト:http://www.pinksubaru.jp/