イェレナ・イェレミッチさん(セルビア)
インタビュー&構成:徳橋功
ご意見・ご感想は itokuhashi@myeyestokyo.com までお願いします。
Jelena Jeremic
セルビア/ギリシャ料理 @ 六本木
(2009年より日本在住)
セルビアやバルカンの国々の本当の姿を見せたいんです。
初めてのセルビア人とのインタビューです。My Eyes Tokyo初であるのはもちろん、生まれて初めてセルビア出身の方と言葉を交わしました。それが若く美しいNiki’s Kitchenのニューフェース、イェレナ・イェレミッチさんです。
明るくて、頭が良くて(数ヶ国語話せます!)ユーモアセンス抜群のイェレナさん。まるでコメディエンヌのようにジョークを繰り出しながら、ひとつのコンロと、1台のオーブンだけで次々に料理を実演していきます。生徒さんはセルビアやギリシャの家庭料理を習いつつ、彼女の国の文化や歴史、人々の暮らしにまで触れていく。超フレンドリーなイェレナさんにかかれば、遠いと思っていた国もすぐ近所くらいに思ってしまうから不思議です。
ひとたび会ったら、かつて戦場だった国から来た女性だとはきっと想像できないでしょう。3度の戦火を乗り越え日本にやってきた”肝っ玉姉さん”の料理教室、心からおススメします!
*インタビュー@六本木
*Niki’s Kitchenホームページ:こちらから
*英語版はこちらから!
「健康は1杯のスプーンから」
セルビアでは、人は日本ほど外食しません。特別な時だけです。それよりも、家で食べるのが好きなんです。なぜなら、家庭料理が一番健康的だって教えられて育っているからです。私のおばあちゃんは言っていました。「健康は1杯のスプーンから」って。これはつまり、家庭料理こそが健康と長生きの秘訣だということです。
いろんな国の食べ物がありながら、その国の料理も楽しめる。そういう場所は世界でもそうあるものではありませんが、東京はそんな街のひとつ。それは日本に来る前から知っていました。でも、いろんな国の料理を習いたがっている女性がこれほどまでたくさん東京にいるなんて、思いもしなかったですね。
私はNiki’s Kitchenで教え始める前、別の料理教室で教えていました。そこで1年経験を積んだ後、その教室のオーナーさんに言われました。「あなたは教えるのが上手だから、Niki’s Kitchenで先生をしてみたら?Niki’sなら、もっとあなたの実力が発揮できると思う」と。初めて聞く名前だから、グーグルで検索しました。そして、Nikiさん(Niki’s Kitchen代表の棚瀬尚子さん)のインタビューを見つけました。棚瀬さんはいろんな国の独自性を大事にしながら、日本と世界の食文化の橋渡しをしている。Nikiさんの思いにとても感動した私は、Niki’s Kitchenで先生をすることを決めました。
*イェレナさんがNiki’sで教えることを決めたインタビューはこちらから。
おばあちゃんの手料理
こうしてお料理を教えたり、自分でも楽しんだり、またいつまでも故郷の味を忘れずにいられるのは、おばあちゃんのおかげです。とっても料理上手なおばあちゃんでした。そういう環境にいたので、小さい頃から自然と食べ物とお料理に興味を持っていました。また私の家族は移動が多かったから、おばあちゃんと過ごした時間が長かった。だからなおさらですね。
今でも覚えています。おばあちゃんがチーズパイを焼いている時、私はおばあちゃんの足にまとわりついていました。「あっちに行きなさい。やけどしちゃうよ」ってよく言われたんだけど、私は「いやだ、ここにいたいの!」って言って聞きませんでした(笑)毎日オーブンからただよってくる、焼きたてのパイやパン、手作りのスープ、いろんな種類のお肉や野菜の香ばしい匂い・・・私の子供時代の思い出の全てです。
私が大学生になる頃まで、料理をたくさんしてきました。食材でいろんなことを試すのが好きでした。私は大学でイタリア語を専攻しましたが、言葉だけじゃなくイタリアの料理にもすごく興味がありました。そして一人のギリシャ人男性、今の夫ですが、彼との出会いもまた、私の料理への興味にさらに火をつけてくれました。私のレパートリーに、地中海料理の香りを運んでくれたんです。
今の私は、日本やギリシャ、セルビアにいる友達、そして夫にお料理を作っていますが、とにかく楽しい。だってお料理って、人をつなげる不思議な魔力があるんですから。
楽しいだけじゃない、とっても実践的なイェレナさんのクラスです。
セルビアの素の姿を見せたい
日本に来たら、やはり多くの人がセルビアと聞いて戦争を連想しました。それにユーゴスラビアになら知っているという人も。ユーゴって、もう何年も前になくなった国なんですけどね。 1985年にセルビアの首都ベオグラードで生まれた私は、確かに3度の戦争を経験しました。ユーゴスラビア紛争、コソボ紛争、そしてユーゴ空爆です。それらは過去の出来事なのですが、ひとたび国のイメージが悪くなると、それを覆すのは大変です。私の国は過去の呪縛から未だ解かれていません。
私の父は軍人、しかも大佐です。その環境が私に戦争というものへの考え方を独特なものにしているわけですが、望むなら私は皆さんにセルビアの本当の姿を見てほしいと思っています。セルビアは恐い国じゃない、むしろ皆さんに対してオープンな、親しみやすい国です。私はセルビアやバルカンの国々の本当の姿を見せたいんです。豊かな文化遺産や豊富な種類の料理、人々の寛大さや生き生きとした精神を育んできた、これらの国や土地の真の姿を・・・。
レッスンの途中、いきなりヘレナさんが生地をテーブルに叩きつけた!
これもお料理の作業の一環。彼女のクラスは、とにかく自由奔放なんです。
外国人と日本人の壁
セルビアは太古の昔から、東洋と西洋との「文化の交差点」でした。それがセルビアの食や文化を豊かにし、人々は外国人や外国の文化を受け入れてきました。
それに比べると、日本の人たちは地理的にも精神的にも、他の国から孤立しているように思います。日本国内に、外国人コミュニティと日本人コミュニティを隔てる壁があるように感じるんです。
だからこそ、Niki’s Kitchenはすごいんです。代表であるNikiさんの「料理で日本と世界を結んでいくんだ」という思いには、心から敬意を表します。
私は生徒さんによく言います。「国境なんて私たちの頭の中で引いた、想像上の線に過ぎない」と。つまり、国境をまたいだ瞬間に文化も変わる、なんてあり得ないということです。でも生徒さんはそのように思いがち。それも分かります、だって日本は島国だから、国境は同時に文化の境目になりますよね。
例えばハンガリーとセルビアでは、文化も料理も全然違うはずだって、私の生徒さんは考えがちです。ハンガリーはセルビアの北隣で、確かに国境で分けられています。でもヨーロッパ中に引かれているたくさんの国境線を、頭の中で一旦消してみてください。ヨーロッパは大きな一つの地域になりますね。
だから完全に同じとか完全に違うとか、そういう考えは意味を成さなくなります。国境をまたいでもすぐには文化は変わらず、虹のようにゆっくりと少しずつ変化していきます。ヨーロッパが同じような歴史を歩み、その結果、極めて似た文化を共有しているんです。
この日作ったのはギリシャ家庭料理のフルコース!イェレナさん曰く、セルビアとギリシャの文化は兄弟のようによく似ているのだそうです。*この日作った料理の詳細はこちらから。
日本への覗き穴
日本は住むのにとても良い場所です。安全でキレイで、きちんとしている。そして人は公正です。だから居場所や友達を見つけることができれば、日本が心地よく感じられると思います。私が一生忘れないと思うのは、日本人の仕事や物に対する献身的な態度です。細部へのこだわりや完璧主義に、私はずっと驚かされっぱなしです。私が故郷に帰ることになったとしても、これらのプロ意識や完璧主義、日本人の自制心やチームワークを学んで帰りたいです。社会への意識についても同様です。私が日本の人たちから学んだことはたくさんあります。
でもね、日本人の大人しさには影響されないと思いますよ。私のおしゃべり癖だけは止まらないんです(笑)だってこれは私の文化だし、私が私であることの証だから。
私は日本で料理以外に語学も教えていますが、どちらも私が心から好きなものです。そして料理を通じて私の文化を日本の人たちに伝えることができます。そんな貴重なチャンスを、この日本で手に入れることができたんです。
イェレナさんにとって、Niki’s Kitchenって何ですか?
食や料理への愛情を共有する場です。
Niki’sは私のルーツを伝える手段をくれました。私自身や私の料理を好きになって下さって、ひいては私の国も好きになってくれたら嬉しいです。
そして、私の国の本当の姿をお見せする場です。
食べることや作ることが好き。それが私たちの共通言語です。その言語さえあれば、一般に抱かれている偏見さえも打ち破ることができると思います。
最後に、Niki’s Kitchenは私と日本の人たちをつなぐ橋であり、一方で私たちの間に横たわる違いを深く追求していく場でもあります。このような機会を下さったことに、本当に感謝しています。
イェレナさん関連リンク
Niki’s Kitchen イェレナさんの紹介ページ:こちら
クラスの予約は、ページ右下の「クラスの履歴」で希望のクラスを選び、開いたページの一番下「参加申し込み」にて行ってください。
ピンバック: 長門ティヤナさん(セルビア) | My Eyes Tokyo