タオ・ロメラ・マルティネスさん(スペイン)
インタビュー&構成:徳橋功
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Tao Romera Martinez
チームSanpo エンジニア
ちょうど良い温度のお風呂から寒い外に出て、また元のお風呂に入ればもっと気持ちいい。
My Eyes Tokyo、何でこの国の出身の人にインタビューしていなかった?と思われそうな国がありました。スペインです。かつては”無敵艦隊”で知られ、歴史に深くその名を刻んだかつての世界の覇者です。
そんな国から日本にやって来たタオ・ロメラ・マルティネスさんは、とーっても穏かで、物腰柔らかい人。日本語は読み・書き・会話どれもパーフェクトです。そんなタオさんに出会ったのは、前回ご紹介した榊原健太郎さん(サムライインキュベート代表)が中心となって開催した「サムライ・ベンチャー・サミット」(2012年9月)でした。
マイクロソフト本社内の会場にズラッと並んだベンチャー企業のブースの中で、ひときわ異彩を放っていた「Sanpo」の文字。何だろう?と思ってそばに行くと、日本人のスタッフさんと一緒に外国人の男性が丁寧に応じて下さいました。それがタオさんでした。 Sanpoを一言で言えば「Google Mapのスローライフ版」。A地点からB地点までの最短距離を示すGoogle Mapとは逆に、たとえ距離が長くても、散歩したり自転車で走るのに気持ちの良いコースを案内してくれます。
自転車に乗って移動するのが好きな私は、もちろんこのサービスに興味を持ちました。そしてブースで優しい笑顔で丁寧に説明して下さったタオさんご自身にも、近々じっくりとお話をお聞きしてみたいと思い、インタビューをお願いしてみました。 もちろんお返事はYES!My Eyes Tokyo初のスペイン人とのインタビューは、楽しくて時間を忘れ、まとめるのが超大変という副産物を生んでしまいました(笑)
*インタビュー@新宿
*英語版はこちらから!
自信が無かったアイデアが採用
僕はよく自転車で都内を移動するんですが、そこでまずGoogle Mapでルートを調べます。すると最短ルートが表示されるのですが、高速道路の真下を通るルートだったり、車通りの多いルートだったりで、自転車で走っても気持ちのいいルートではありません。そこで、徒歩や自転車に特化したルート情報を提供してくれるサービスを探しましたが、ありませんでした。
そのような情報を提供してくれるサービスがあれば、と思いましたが、このアイデアにそれほど自信があったわけではありませんでした。詳しくは後でお話しますが、ある場所で出会ったチームメンバーと繰り返していたブレーンストーミングの最後の方で「ちなみに、こんなアイデアも考えているんだけど・・・」と切り出しました。すると意外なことに皆が「いいね!」「素晴らしい!」と言いました。そのアイデアが「Sanpo」の元になったのです。
最初は自転車で移動する人向けのアプリを作ろうと思いましたが、それだけでなく徒歩にも適用できるサービスを作ろうということになりました。そこから発想が広がっていきました。
僕がアプリの裏側にある技術面を担当し、もう一人のエンジニアがインターフェースを担当することになりました。加えてデザイナー1人とマーケティング&PR担当1人、計4人で「Sanpo」チームを結成。2012年2月に開発に着手し、8月にリリースしました。
僕自身もこのアプリのヘビーユーザーです。自分たちで開発したサービスですが、すごくありがたく思って使っています。やはり起業のタネは”自分の欲求”ですね。自分が欲しいと思うものなら、どんな機能を付けるべきかが分かりますから。
「Sanpo」デモ映像
全然知らなかった日本のこと
今はこうして日本で生活し、日本語にもほとんど不自由しません。でも大学入学以前は日本人どころかアジア人そのものに会ったことがありませんでした。その上、アニメにもゲームにも興味がありませんでした。だから日本についても全く知りませんでした。
母国スペインでは、6歳から高校3年生までの12年間、フランス学校に通っていました。そのため僕にはフランスの大学の入試受験資格もあったので、フランスの大学の電子通信系学部を普通に受験して合格しました。
僕がフランス人学校に行ったのは、僕の両親のどちらかがフランス人だったから、というわけではありませんし、両親がフランス好きだったからでもありません。しかも家からバスで30分くらいと、かなり離れたところにありました。それでも両親が僕をそこに通わせたのは、僕に他の文化に触れる機会を持たせるためだったんです。そのおかげでフランス人学校を卒業する頃には、母国語のスペイン語に加えてフランス語、英語を話せるようになっていました。
大学に入ってからは、全く違う言語を勉強したいと思うようになりました。僕が入った大学には、ヨーロッパの言語以外に唯一科目としてあったのが日本語でした。それで、単に趣味として日本語を習い始めました。もし大学に中国語のクラスがあったら、僕のその後の人生は全く違うものになっていたかもしれませんね。
清里で日本にハマる
僕が受けたその授業では、日本語以外に日本文化も教えてくれて「面白いな」と思いました。しかも東洋にありながら西洋と同じくらい経済が発展していたので、そこまで遠さを感じませんでした。それがきっかけで、大学3年の時に日本に2ヶ月間ホームステイに来ました。場所は山梨県の清里高原です。ペンションが立ち並ぶ美しい観光地ですが、僕が滞在したのは旅館でした(笑)
そこは全くの日本で、僕以外の人は日本語以外の言葉を全然話せませんでした。でもそのおかげで、その2ヶ月間で僕の日本語能力はグングン伸びました。それに母国やフランスの文化と全く違う日本文化に肌で触れることができたので、すごく刺激的でした。
そのような体験をしたので、大学5年生の時 – フランスの大学の工学系は5年制 – 学年の後半半年の研究活動を日本でしたいと思いました。そして縁あって、東京工業大学の電子通信系で半年間の研究に携わることになりました。
並行して卒業論文を書き、その発表のためにフランスに戻りましたが、日本とフランスとでは卒業年度が違います。フランスでその年の9月に大学を卒業しましたが、日本の大学は翌年の3月卒業。なので年度末まで東工大での研究期間を延長しました。東工大側からも「研究を続けてほしい」と言われていましたしね。
結果的に、東工大には1年間在籍しました。就職活動も日本で行い、日本の会社に入り、その後今までずっと日本です。
アフリカで国際チームを仕切る
小さな医療機器メーカーや富士通での研究員を経て、国際開発コンサルタントになりました。パソコンの前にずっと座っているのではなく、人との交流が図れるような、もっと人間味のある仕事に就きたいと思ったんです。それで選んだのがコンサルタントの仕事でした。
JICA(国際協力機構)が発展途上国の開発に資金を出していますが、実際に開発に携わるのはコンサルタントです。JICAから受けた予算の範囲内でシステムを設計・開発し、現地に持っていって稼働するまでを管理する、いわゆるプロジェクトマネージャーを担当していました。僕はそれでアフリカ、中でもチュニジアによく行っていました。
チュニジアの河川の氾濫対策プロジェクトでは、雨量の遠隔計測システムの運営を担当しました。スイスやチュニジアのチームと日本人チームとの折衝を仕切ったこともありました。それぞれの文化背景が全く違うし、それによる言葉の解釈も全く違うから、本当に大変でしたね。
その仕事には2年間携わりました。富士通ではエンジニアとしての経験を積み、コンサルティングではプロジェクトマネージメントを学びました。それでもやはり根はエンジニアです。コンサルタントだとシステム開発よりはシステム運営を担当します。だからもう一度、エンジニアに戻りたいと思うようになりました。
「これがやりたいんだ!」
約5年間日本企業で働いてきて、やはり企業文化の独特さを感じました。それに有給休暇も満足に取れなかったし、なかなか思うように働けなかった。特に時間と場所を制限されることに、少しうんざりしていました。それでフリーランスを考えるようになったんですが、フリーとして何をやるかまでは決まっていませんでした。だからスタートアップのベンチャーで働くことも視野に入れていました。
そこでパソコンでいろいろ調べていたら、偶然「Startup Weekend Tokyo」というものを見つけました。Startup Weekendはアメリカ発祥の”起業家養成イベント”で、金曜日の夜から日曜日の夜までの54時間でチーム結成から実際の起業までのシミュレーションをするというものです。
まだエンジニアコンサルタントとしてコンサルティング会社で働いていた2011年10月、僕はStartup Weekend Tokyoに参加しました。特に具体的なアイデアが無かったにも関わらず、です。
でも参加して「僕はこれがやりたいんだ!」「僕はこういうふうに働きたいんだ!」と思いました。普段の仕事と違って若い人たちとひとつのプロジェクトに取り組んだからやり甲斐もあったし、会社でどれだけ長く働いたかというよりは「成果を出せるか出せないか」が起業家にとって重要ですよね。そういうワーキングスタイルの方が自分には合うと思いました。それでこのイベントをきっかけに、”起業”を考えるようになったのです。そして2012年4月にコンサルタント会社を退社しました。
Sanpoは社会の役に立つか?
外国人は、起業する際の条件は日本人とは違います。日本人が起業する場合、今なら資本金1円から可能です。一方で外国人は、500万円の投資や事務所として使用する施設を国内に確保していることが求められます。自宅を事務所にすることは許されないそうです。だから外国人が一人で会社を日本国内で立ち上げるのは難しいんです。
でも、僕は幸運にも「Startup Weekend Tokyo」でSanpoの共同開発者である平沼真吾さんや、後に僕らのサービスのマーケティング担当となる椿奈緒子さんに出会いました。彼らと「何か作ろう!」という話になり、彼らの伝手でつながったデザイナーの野末美香さんも交えて、1ヶ月くらいブレインストーミングを繰り返しました。そして一番最初にお話した経緯で「Sanpo」は生まれました。
Sanpoプレゼン@サムライ・ベンチャー・サミット(2012年9月22日)
僕ら4人の共通の思いは「社会に役立つサービスを作る」ことでした。もちろん僕たちはあるサービスをリリースすることで生活していかなくてはいけませんが、ただお金のためだけではなく、本当に社会の役に立つものを作りたいと思いました。
一方でSanpoは「社会の役に立つの?」と思われるかもしれないサービスです。だから僕はブレストの時にこのアイデアを口にするのをためらったんです。でもこれを使うことで散歩やサイクリングが楽しくなり、メタボも解消できる。気分転換にもなり、気持ちも体も元気になる。だから僕たちのサービスは社会の役に立てると思うし、それがモチベーションだから作るのが楽しいです。
Sanpoを世界に広げたい
日本ではもう7年も生活しているから、すっかり日本に根付いた感があります。東日本大震災の時は両親は心配したし、特に地震直後の原発事故の時は、僕自身も逃げようかと一瞬思いました。でも、そう簡単には逃げられないですよ。たとえ東京から大阪に逃げるとしても、自分の生活基盤は全てここにあるから、せいぜい1週間が限界です。それだけ僕は東京に根付いているんですよね。
それにサービスの海外展開は、今の時代は日本にいながらにして可能です。Sanpoという名前も、海外展開を考えた上でアルファベット表記にしています。僕はスペイン人として、サービスを考える時に「それは海外展開は可能か?」ということを常に念頭に置いています。例えば「きれいな桜が見られるスポットも入れよう」と誰かが言っても、僕は「面白いけど、海外の人は興味を示さないよ」と言える。そういう意味では、Sanpoは強い味方を得ましたね(笑)。僕たちは日本から世界の都市に住む人たちに「Sanpo」を伝えたいと思います。
チームSanpoのもう一人のエンジニア、平沼真吾さんと共に(@サムライ・ベンチャー・サミット)
タオさんにとって、日本って何ですか?
良い国だと思います。人がみんな優しいですよね。
でも一方で、日本があまりに居心地良いからか、他の文化に興味を持つ人が少ない印象があります。例えて言うと、お風呂のようなものですね。ちょうど良い温度のお風呂で気持ちがいいんだけど、一度そこから寒い外に出て、また元のお風呂に入ればもっと気持ちいい。それと同じように、
外国から来た人たちと交流したり、他の文化を知る機会を持てば、すごく刺激的な体験を得られると思います。
タオさんにとって、東京って何ですか?
大きな街なのに、すごく住みやすいです。そして、可能性がたくさんある街です。いろんな人にも出会えるし、同じ考えの人にも出会えるから、何かをやりたい人、何かを実現させたい人にとってはすごく良い街だと思います。
タオさん関連リンク
Sanpo:http://www.sanpo.mobi/
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3.11の後、サンリオのNPOとコラボし10年アリガトウ・プロジェクトを立ち上げました。
その進捗状況は上記のサイト→右の写真と進むとご覧戴けます。
現在、坂本龍馬が脱藩した街・高知県梼原町の町興しプロジェクトにソーシャル・プロジューサーの立ち位置で関わっております。
このプロジェクトの企画に関して、タオ・ロメラ・マルティネス様とお目に掛かりたく思っております。
来月初旬でお時間を戴ける日時を2,3案お教え願えないでしょうか。
以上、宜しくお願い致します。
カナディアン・アカデミー・セタガヤ校
校長・難波三津子