セルカン・トソさん(トルコ)
インタビュー&構成:徳橋功
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Serkan Toso
起業家
世界規模のビジネスと子どもたちの支援を同時に行う。それが僕の夢です。
ある日、私たちのもとに1通のメールが届きました。「ぜひMy Eyes Tokyoとコラボさせていただきたい」。送信者の名前はセルカン・トソさん、メールには彼の事業について語られていました。それによれば、彼は東京を訪れる外国人観光客にフードイベント情報を提供するプラットフォームをネット上で展開しているとのことでした。
私たちはセルカンさんに興味を持ちました。それは彼自身が・・・
1. トルコ出身。日本在住トルコ人IT起業家は全くの想定外でした。
2. イスラム教徒、つまり食べられるものに制限があるということ。にもかかわらず、ラーメンや日本酒のイベントを紹介していて興味津々。
3. ビジネスを通じ、食べ物を必要としている子どもたちを助けようとしている。
時はラマダン直後。私たちはコラボ話をお聞きする前に、彼のユニークな発想のルーツを探ることにしました。
*インタビュー@Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE(台東区)
*英語版はこちらから
英語版校正:ダニエル・ペンソ
食を体で感じたい人のためのガイド
僕の故郷トルコには、様々な種類の料理があります。それにトルコ料理は世界三大料理のひとつ。そういう環境に育ってきたから、食べ物にずっと興味があるんです。ラーメンも食べますよ、もちろん魚や鶏ベースですが(笑)
日本もトルコと同じです。日本にもあらゆる種類の食べ物があるし、和食は世界中で大人気。外国人が日本を訪れる最大の理由は“食”という調査結果もあるほどです。それって、食べ物こそが日本を訪れる大きなモチベーションになっているということですよね。中でも東京は、世界の食の中心です。有名なミシュランガイドに掲載されている都内のレストラン数は世界で最多ですし、都内には16万5000件もの飲食店がひしめき合っています。東京はまさにグルメにとっての天国です。
そんなわけで、東京のグルメ情報を提供することを思い付きました。ただし、僕はあることにフォーカスしたかったのです。
東京にはレストラン情報があふれています。メディアを見れば美味しいラーメン屋さんはすぐ見つかります。でも“食の体験”はどうでしょう?もし皆さんがはるばる東京にやってきたなら、せっかくなら自分だけのオリジナルラーメンを作ってみたいと思うのではないでしょうか。僕は、そのような人たちの役に立ちたいと思い「Tokyo by Food」というウェブサイトを立ち上げました。
僕たちはオリジナルのラーメンや寿司、天ぷらなど、好きな食べ物を作ることができるイベントの情報を提供しています。2018年7月現在、42の料理教室、22の食べ歩きツアー、その他9のグルメ体験、合計73のイベントを紹介しています。その中にはハラルやベジタリアン、ヴィーガン、コーシャといった食べ物のイベントも含まれています。あらゆる文化的背景を持った人たちに参加していただけるサービスだと自負しています。僕たちは食べ物関連のイベントに特化した情報を提供するので、逆に言えばあなたにぴったりな食体験が、きっとこのサイトで見つかるでしょう。
すごい田舎で最新ビジネスを学ぶ
僕の初めての仕事はトルコ時代、大学2年の時のIBMでのアルバイトでした。大学卒業後はトルコ最大の通信会社に入社、デジタルマーケティング部門に配属。やがて僕は、デジタル技術やデジタル分野についてもっと学びたいと思い、海外に留学しようと考えました。
まずアメリカは学費が高いのでNG。ヨーロッパはトルコとそれほど違わないので興味がありませんでした。それでアジアに行くことにしました。中でも僕は日本に強い関心を抱きました。僕らトルコ人は日本や日本人、日本の文化が好きなのです。それはトルコと日本が良い関係だから。僕たちは“エルトゥールル号”の話を知っています。19世紀終わりごろ、トルコの軍艦エルトゥールル号が日本への航海から帰国する時、和歌山沖で台風に遭遇。500人以上が命を落とす中、約70人が地元の日本人住民や医者、看護師に救われました。僕らトルコ人は全員この話を聞いて育っています。だから日本には心から感謝しているのです。
僕はトルコにいた時、新潟県にある国際大学という大学の評判を耳にし、興味を持ちました。そこで国際大学に留学し、ITビジネスを専攻。大学が町から遠く離れていたのが幸いし、1年間勉強に集中できました。だって周りにコンビニ1軒すら無い環境だったんですから(笑)
急成長市場を狙う
もともと僕は、長期間日本にいることは考えていませんでした。でも国際大学で学ぶうちに、日本にもっと長くいたいと思うようになったのです。そこで僕は上京し、就職活動を開始。国際大学をトップの成績で卒業後、日本の製品を海外に販売するEコマース企業に入社しました。僕はそこで1年半、マーケティング担当として今年5月まで勤務。ただ実際にTokyo by Foodを立ち上げたのは今年1月、まだ会社に在籍中のことでした。
Tokyo by Foodの元となるアイデアは、新潟時代に生まれました。夕方からしか開かない飲食店があると聞き、友人と僕とで「そういうお店で午前中などにシェフが料理教室を開いたら面白いのでは?」と思ったのがきっかけです。でも実際は、シェフたちが日中は多忙だということを知りました。そこでまた別のアイデアが生まれました。キッチンスタジオや自宅で開かれている料理教室を世界規模で網羅したポータルサイトです。しかしその友人が母国に帰ってしまったため、一人で世界規模のプロジェクトを進めることができず、断念。そこで僕はターゲットを世界から東京に一点集中させ、代わりに料理教室だけでなく食べ歩きツアーも紹介することにしました。これがTokyo by Foodローンチの経緯です。ラッキーなことに、同じトルコ人で日本在住歴が数十年というビジネスパートナーとの出会いにも恵まれました。
日本を訪れる外国人旅行客は急速に増えています。10年前は600万人だった訪日観光客数が、2017年には2700万人にまで膨れ上がりました。さらに日本政府は、2020年までに訪日観光客数を4000万人にまで増やすことを狙っています。そのうちの半分だけでも東京に来たら、僕の事業はさらに成長するでしょう。
僕は2019年、現在の事業を日本全国に展開させるために「Japan by Food」の立ち上げを狙っています。そして日本には東京・京都・大阪だけでなく、それ以外にも素晴らしい場所があることを伝えたいと思っています。究極はそれを世界的に広げようと考えており、それが実現した暁には、例えばタイで実施されている料理教室や食べ歩きツアーを、僕のサイトで見つけることが可能になります。
世界の食の中心と言われるトルコ、タイ、イタリア、スペイン、フランス – これらの地域で「○○ by Food」を生み出すこと、それが僕の夢です。
予約は子どもたちを救う
僕にはもう一つ夢があります。それは「自分のサービスを通じて、貧しさにあえぐ子どもたちを助けること」です。
「One Young World」という、ロンドンに本部のある世界最大のカンファレンス運営団体があります。そのカンファレンスの参加者は若者で、200を超える国から若者たちが集結し、社会問題について議論します。ビル・クリントンやコフィ・アナン、リチャード・ブランソンといった世界的な著名人も参加するほどのものです。僕は2013年、南アフリカのヨハネスブルグで行われたOne Young Worldカンファレンスに、トルコ代表の一人として参加しました。当時、僕はユース団体の副代表をしていました。欧州連合と共に若者同士の交流事業を運営する団体です。僕らは主に若年層の失業や性の平等、環境、文化などについて議論しました。そのような理由から友人が僕にOne Young Worldへの参加を勧めたのです。僕はそれに応じるように参加資格を満たすためのコンテストを受けて合格し、晴れて世界最大級のカンファレンスに参加しました。
One Young Worldカンファレンス2013(南アフリカ ヨハネスブルグ)*写真提供:セルカン・トソさん
その経験が僕を社会問題へと目を向けさせてくれました。参加者全員が何らかの社会問題にかかわり、それぞれが貧困問題や環境保護などに取り組むプロジェクトを運営していました。僕は彼らから強く刺激され「もし僕が起業したら、自分の事業を通じて人々を助けよう」と決めました。
Tokyo by Food立ち上げ後、僕は日々十分に食事を摂ることができない人たちを助けようと思いました。なぜなら僕はフードビジネスと共に活動しているからです。そこで僕は、Tokyo by Foodが紹介するイベントやツアーに参加することで、困っている人たちを助けることができる仕組みを作ろうと思い立ちました。
僕は今年(2018年)初めに東南アジア諸国を周りました。カンボジアを訪ねた時、僕は友人が教えてくれた場所に行きたいと思いました。人道支援に長年携わるトルコ人女性が運営する場所です。かつてポル・ポト政権下で大量虐殺が行われた悪名高い「キリング・フィールド」に隣接しているその村は「リビング・フィールド」、つまり「生きている場所」と名付けられました。約300人の人々が住み、彼女は子どもたちのためにお弁当を毎日用意しています。さらに居住者のために新しい家も建てました。それらへは彼女の自費と、彼女が運営する基金への寄付金が充てられています。でも彼女は決して自分の顔や名前を表に出すことはありません。なぜなら彼女自身が有名になってしまうことを拒んでいるからです。そのような真摯な態度に、僕は心を打たれました。
僕はリビング・フィールドに行きたいと思いました。でも時間が足りませんでした。だから代わりにカンボジアの首都プノンペンにある、彼女が経営するレストランに行こうと思いました。そのレストランの収益の一部が彼女の団体に寄付されると聞いたからです。しかし、その日お店は閉まっていました。だから僕は彼女にメールを送りました。そしてついに、Tokyo by Foodを通じて教室やツアーを予約した際、1人の予約あたり(1回の予約あたりではない)10個のお弁当が、彼女の団体を通じて子どもたちに届けられることで合意しました。それが「Food for Happiness」というプロジェクトです。
今はカンボジアの子どもたちを支援していますが、ゆくゆくは他の国の人々への支援も行えたらと思います。
起業家の城宝薫さんとミーティング。城宝さんは、レストラン予約を通じて途上国の子どもたちに給食を届ける仕組みを「テーブルクロス」というアプリで実現。考えを同じくする若者同士、すぐに意気投合しました。
セルカンさんにとって、東京って何ですか?
東京はたくさんの選択肢がある街です。
東京には食べ物や飲み物が数限りなくあふれています。それにレストランやバーが、どんな小さな路地にもありますよね。僕は吉祥寺や新宿にある“横丁”が好きで、横丁にある小さな飲み屋さんに行っては隣にいる人と話したりします。
でも一方で、起業環境はどうでしょう?僕のような立ち上がったばかりのベンチャーに必要なエンジェル投資については、ごくわずかな選択肢しかありません。東京には、自社の事業と関係するプロジェクトに投資するコーポレート・ベンチャー・キャピタルはいくつかあっても、起業して間もないベンチャーに投資する個人は非常に少ないというのが僕の印象です。
東京が起業家にさらなる選択肢とチャンスを提供してくれることを願っています!
セルカンさん関連リンク
Tokyo by Foodウェブサイト: tokyobyfood.com
Facebook: facebook.com/tokyobyfood
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