『異文化理解力』著者 エリン・メイヤーさんの講演に行ってきました!
取材&構成:徳橋功
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4月 – 新たな始まりの季節になりました。入社、進学、進級、異動・・・新天地で新しい出会いを数多く経験されることでしょう。
しかし今の時代、その出会いは日本人や、同じ文化を共有する人同士に限りません。環境によっては世界中からやってきた、様々な背景を持つ人たちと、一つ屋根の下で共に仕事をしたり学んだりすることも十分あり得ます。
そこで今回は「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」をミッションに掲げるSansan株式会社が主催するカンファレンスにて行われた、エリン・メイヤー氏による講演の一部をご紹介します。
メイヤー氏は世界中のビジネスパーソン18万人に面談し、日本を含む55カ国の“カルチャー・マップ”を作成。文化の違いがビジネスコミュニケーションにどのように影響するかを分析し、「コミュニケーションの図り方」「評価の仕方」「リーダーシップの取り方」など8つの指標をもとに世界各国のビジネス文化の違いを可視化。それらを分かりやすくまとめた著書『異文化理解力 – 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』(原題:The Culture Map – Decoding How People Think, Lead, and Get Things Done Across Cultures)が2015年に出版されました。
“8つの指標”については講演でも触れていましたが、その中から私たちMy Eyes Tokyoは、最近メディアなどで耳にする“ローコンテクスト(低文脈)”“ハイコンテクスト(高文脈)”をキーワードとした「コミュニケーションの図り方」についてご紹介したいと思います。
※“ローコンテクスト”“ハイコンテクスト”の意味についてはこちらをご覧ください。
※講演内容を要約しご紹介します。
講演@Sansan Innovation Project 働き方2020(2018年3月16日)
言葉を尽くせ VS 忖度しろ
「良いコミュニケーションを世界各地で取ること」というのは、いったいどういうことでしょうか。ここで“ローコンテクスト”と“ハイコンテクスト”という概念に分けて考えたいと思います。
ローコンテクストの文化を持つ人々に話をする時、彼らの間で共有化された知識や参考点が少ないことが前提になります。その際に取るコミュニケーションは、シンプルで明確であり曖昧さが無いものでなくてはなりません。一度言ったことを何度も繰り返し、強調し、シンプルで明確な表現を心がける – それらがローコンテクストの文化の人たちとのコミュニケーションです。
一方ハイコンテクストの文化でのコミュニケーションは、知識や情報、参考点を共有している人々の間で行われます。この文化でのプロフェッショナルなコミュニケーションは非常に洗練されており、遠回しの表現やニュアンスがたくさん含まれています。
私は英語とフランス語の2言語で講義をしますが、フランス語に「シュ・ソントンジュ」という言葉があります。これは「“私の言っていること”ではなく“私の意味していること”を理解してください」という意味です。同じような表現が日本語にもありますね。それは「Kuuki Ga Yomenai(空気が読めない)」です(会場笑)。すなわち“雰囲気が理解できない”という概念であり、「あるメッセージが本当に意味することを雰囲気から察して把握することができない」、そのような人はコミュニケーション能力が無いという考え方です。
国々の分布をご覧ください。アングロサクソン諸国は全て左側(ローコンテクスト)に来ています。英語というのは文字通りに解釈する言葉、文字で語る言葉です。一方でそれ以外の言語では“行間を読む”ことを求められます。ローコンテクストの国々の中で最も左側に来ているのがアメリカであり、イギリスはアメリカよりもハイコンテクスト寄りに来ています。
そしてラテン諸国と呼ばれる国々はアングロサクソンよりも右、つまりハイコンテクストの文化を持っています。
最もハイコンテクストであるのが、日本を含むアジア諸国です。例えばインドの言語のひとつであるヒンディー語には“カル”という言葉がありますが、この1語で“明日”と“昨日”の両方の意味を持っています。ハイコンテクストの文化を持つ国の言語には、このように1つの単語が複数の意味を持つことがあり、その意味はその言葉が使われている文の文脈に基づいてのみ解釈されます。
複数の文化が混在する職場環境を考えてみましょう。台湾にあるドイツ系企業に勤務する中国人の事例です。本社からドイツ人幹部が来た時、そのドイツ人は彼に「あなたが今私に伝えていることを、あなたの直属の上司に話しましたか?」と聞きました。すると彼は「私は上司が分かるように示したので、きっと伝わっているに違いない」と言いました。その状況を聞いた私は「それでは恐らく伝わらなかっただろうな」と思いました。
もうひとつの事例です。私は東京の米国系企業で講義をしました。私が講義を始める前、ニューヨーク本社から会長が来てプレゼンテーションをしたそうです。それに参加した日本人が私に言いました。「会長が話していた間、私は全ての感覚を研ぎ澄ませてそれに耳を傾け、会長が伝えようとしていた全ての意味を理解しようと頑張ったんです」と。私は「会長が言った言葉に、それ以上の意味は無かったのではないかしら」と思いました。もし会長が、自分のメッセージの行間を読もうと思いながら自分のプレゼンを聞いていた人がいたと知ったら、驚いたのではないでしょうか。
ここで、フランスと日本という2つのハイコンテクストの文化を持つ国を取り上げたいと思います。両方ともハイコンテクストの文化を持ちながら、言葉の持つ意味の理解の仕方が異なります。例えば日本人の多くは何かを頼まれると「はい」と言いながら、本音では「できない」と言いたい(会場笑)。一方で私が普段住んでいるフランスでは、最初は「いやいや、それはできない」と言いながら、もう少し話してみると、実はできる。フランス人の「NO」は本当の意味でのNOではない、ということがよくあることを示しています。ある日本人が私に言いました。「もし私たちが、お互いに目と目をしっかり合わせた状態で、相手から“NO”と言われたら、それは日本人としてとても失礼な態度だ」と。
なぜこのようなことが起きるのか、歴史の側面から見てみたいと思います。例えばアメリカは、世界で最もローコンテクストの国、一方で日本は世界で最もハイコンテクストの国です。なぜこうなったのか。日本は島国で国民は均質的、そして数千年もの間、人々は地理的にお互い非常に密接に暮らしてきました。そのような背景から、日本では“空気を読まなくてはならない”という文化が醸成されました。一方アメリカは、250年前に世界各地から、様々な歴史を抱えたいろいろな言語を話す人々が集まってできた国です。そのため自分の言いたいことをアメリカで伝えるためには、一番共通の分母まで単純化しなければなりません。
世界はどこに向かってる?
ここで皆さんに、ひとつ質問させてください。多文化チームにおいて、最も誤解が起こりやすい組み合わせはどれでしょうか?
A. ローコンテクスト文化圏の人同士(例:アメリカ人とドイツ人)
B. ローコンテクスト文化圏の人とハイコンテクスト文化圏の人(例:アメリカ人と日本人)
C. ハイコンテクスト文化圏の人同士(例:日本人とブラジル人)
最も誤解が起こりやすい組み合わせは C.です。なぜならお互いが行間を読み、空気を読んでいる状態で、それぞれの解釈が異なるために誤解が生じるからです。そのためグローバルチームでは、ローコンテクストのプロセス、つまりシンプルで、かつ言わなくても良いようなことを敢えて言うようなコミュニケーションが必要です。
そして国際的に仕事をする際 – この会場にいらっしゃる人のほとんどが日本人であるわけですが – 最適にビジネスを行うためには、メッセージが明白である必要があり、その上で繰り返しメッセージを伝えなくてはなりません。
世代間の変化を見た場合、世界全体の流れとしてローコンテクストの方向へと動いています。グローバル化とともに、いろいろな国の人たちが集まれば、その分シンプルなコミュニケーションが求められます。日本でもそのような状況が見られます。日本の若い世代はローコンテクストを志向しているため、日本人の間でもこのことを意識しておかなくてはならないのです。
そのほか異文化コミュニケーションで大事なことについては・・・
『異文化理解力 – 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
をご一読されることをお勧めします。
詳しい内容は画像をクリックしてご覧ください!
主催
Sansan株式会社:jp.corp-sansan.com
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