My Eyes 米大統領選2016 ㉚ オバマ氏への拒絶
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ダニエル・ペンソ
コラムニスト/翻訳家
どの大統領も後世に語り継がれる財産や遺産を残したいという思いがあり、後継者にはその人の歩んできた道を辿ったり、その人の政策を忠実に守ってくれるよう期待するものです。最近のアメリカの歴史を見ても、第40代大統領のロナルド・レーガン氏は保守的価値観の基礎となった人物であり、事実上全ての共和党選出の大統領候補、さらには民主党候補者からも愛され、また手本にされてきました。それは彼の1980年および1984年の大統領選での圧勝によるところが大きく、一部の歴史家はレーガン氏が打ち出した大幅減税や、国家主義的なアメリカの哲学が、ジョージ・H・W・ブッシュ氏(パパブッシュ)、ビル・クリントン氏、ジョージ・W・ブッシュ氏に受け継がれてきたと見ています。
一方で、ジョージ・W・ブッシュ氏が2009年に退任した時、彼は悪名高いリーマンショックにより選挙で人々からNOを突き付けられました。そして新たに大統領の座に就いたのが、バラク・フセイン・オバマ氏でした。ブッシュ氏への批評家は、イラクやアフガニスタンで戦争を始めるような彼の好戦的な外交政策や、一見すると対イスラムおよび対イスラム世界への戦争に関わっていることが、イスラム世界のみならずヨーロッパなどにおけるブッシュ氏への敵意を生み出したのだと考えました。そんなブッシュ氏に取って替わる存在としてオバマ氏は歓迎され、彼は「戦争を集結させ、イスラム世界と友好関係を築き、アメリカに再び繁栄をもたらす」と言いました。
さて、実際にそれは成功したでしょうか?11月8日にドナルド・J・トランプ氏が第45代大統領に選出されたのは、その問いに対し「NO」の大合唱が起こったことの証と言えます。実際にアメリカはイラクから部隊を撤退させましたが、代わりに3000〜5000人とも言われる「顧問」と称する人たちを派遣し、アフガニスタンでの事態に今も関わったままです。その他にも、アメリカの「テロとの戦い」をシリアにまで拡大させ、リビアの安定政権やエジプトがISISやムスリム同胞団の手に落ちたのも、いずれもオバマ氏に端を発しています。エジプトはムスリム同胞団に対し弾圧を開始、現在では同国は軍により統治されています。ウクライナで民主的な選挙を経て生まれた政権は、オバマ政権で副大統領だったジョー・バイデン氏と関係のある、ジョージ・ソロス氏を支持するグループにより非合法的に転覆され、ロシアとウクライナは第三次世界大戦の危機もささやかれるような内戦状態に陥りました。オバマ氏が大統領に選ばれてすぐにノーベル平和賞を受賞したことを考えると、皮肉なことです。
第44代アメリカ大統領の外交政策は、紛れもない大失敗であるように思えます。では、彼の国内政策はどうだったでしょうか?オバマ氏が遺したのは「オバマケア」、正式には「医療費負担適正化法」です。この法律は議会を通過し、オバマ氏は無保険の人々や貧しい家族が医療を受けられるようにすると述べました。かなり党派対立的な問題であったことを考えると、この法律が成功か失敗かを判断するのは難しいです。筆者個人としては、この法律のおかげで養育費は下がりました。しかし他のもの、例えば保険料や控除免責金額は収拾不能なほど上昇し、結果的に多くの保険会社の倒産につながりました。トランプ氏は「医療費負担適正化法」を撤廃することを約束しましたが、この法律がオバマ氏の特筆すべき業績であったことを考えると、これがトランプ政権下においてどのように機能するのかを見るのも興味深いかもしれません。
ダニエル・ペンソ
米オレゴン州在住の日英翻訳家。1999年〜2009年の約10年間住んでいた東京を”第2の故郷”と呼ぶ。趣味は旅行、語学、食。日本への旅行時には落語を楽しむ。
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*ダニエル氏の意見は、My Eyes Tokyoとは関係ありません。