My Eyes 米大統領選2016 ⑭ アメリカは民主政治か寡頭政治か?

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ダニエル・ペンソ
コラムニスト/翻訳家  

 

この問いは、民主党と共和党の双方の支持者の脳裏に浮かんでくるものだと思います。バーニー・サンダース氏とドナルド・トランプ氏の支持者は怒りに満ちています。その矛先は、長年のライバルであり「内部事情通」とも囁かれるヒラリー・クリントン氏とテッド・クルーズ氏双方の集計システムの「不正操作」です。これに乗じて、相手を見下すようなあだ名を付けるのが好きなトランプ氏は、クリントン氏のことを「不正のヒラリー」と呼び、サンダース氏が受けている不公正な扱いに同情の念を示しています。

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Photo from Wikipedia

「内部事情通」や「不正操作」といった非難は、デタラメで馬鹿げたことでしょうか?答えは必ずしも簡単には導き出せません。2期8年に渡って政治の世界やホワイトハウスに身を置いていたクリントン氏ですから、支配層や政治の世界の内外に多くの工作員や協力者がいるのは明らかです。同時にバーモント州上院議員であるクリントン氏のライバルのサンダース氏は、政治の世界で30年以上活躍していますが、その事実が彼らの支持者から見過ごされています。

一方でトランプ氏ですが、彼はこれまでの人生で一度も政治家として活動したことがないものの、政治家を操った経験はあります。だからトランプ氏と関係する政治家のことはだいたい知っています。ビルやカジノ、その他諸々のビジネスに携わる人というだけで「政治を知らない部外者」と片付けるのは早計です。

 

クルーズ氏に向けられる冷たい視線

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Photo from Wikipedia

テッド・クルーズ氏がテキサス州上院議員の任期中に巻き起こした保守層同士の表層的な論争において、彼は前大統領ジョージ・W・ブッシュ氏の工作員になったとか、ゴールドマン・サックスの操り人形になったなどの非難を受けました(妻のハイディ・クルーズ氏はゴールドマン・サックスの投資マネージャー)。彼は実業家でジョージ・W・ブッシュ氏の弟であるニール・ブッシュと組んでいますが、そのニール・ブッシュ氏は2007〜08年にかけて財政的失態を犯しており、しかも同じくジョージ・W・ブッシュ氏の弟であるジェブ・ブッシュ氏からも支援を受けています。ブッシュ家は政治界に大変強い影響力を持っているため、共和党の大多数とは言わないまでも、一部の共和党代議員とつながりがあるのは間違いなく、クルーズ氏のために彼らが自らの権力をふりかざすこともあり得ます。

 

不公平な代議員システム

ここで要となるのが、代議員制度です。代議員はどのようにして選ばれるのでしょうか?共和党代議員選出の方法やプロセスは、州によって異なります。ほとんどの代議員は投票により選ばれますが、コロラド州では選挙は行われず、しかも34人の代議員がクルーズ陣営から何らかの報酬を受け取っています。このことに対し強い非難が巻き起こりました。

共和党の候補者選を取り仕切る共和党全国委員会(RNC)の会長であるレインス・プリバス氏は、党には候補者支援をきちんと行ってほしいと言ったものの、コロラドでの候補者選出について認めており、しかも長年にわたりその「ルール」が実行されていたと言いました。

そのルールはコロラド州のみならずノースダコタ州やワイオミング州、米領サモア、グアムで適用されています。ただしコロラド州以外の州や地域では、党員集会や予備選の結果による報酬というシステムは取り入れられていません。[1]

民主党員や無党派層が共和党予備選で投票できる公開投票というものが、一部の州で行われています。各州はコロラドなどとは異なる形で、得票数トップの候補者に報酬を提供しています。例えば「勝者総取り」や、勝者が代議員の大半を獲得できるというものです。クルーズ陣営は、トランプ氏は37%しか得票していないのに、累計46%の代議員を、このシステムにより獲得したとして異議を唱えています。

 

ブラックジャック

さらに事態をややこしくしているのは、4月26日に開催される(*当記事執筆はこれより前)ペンシルベニア州での予備選です。ここでの予備選が、オハイオ州クリーブランドでの「コンテステッド・コンベンション」、つまり党内での協議で党候補を決める事態へと導くのではないかと懸念されています。代議員はどの候補をも支持できるようになるため、投票者はクルーズ氏、ジョン・ケーシック氏、トランプ氏がどの代議員から支持されているのか分からないという状況になります。

これはカードゲームの「ブラックジャック」にも似ている気がします。プレイヤーは、それぞれどんなカードを持っているかわかりません。これはある人にとっては面白いことかもしれませんが、選挙には結果がついて回ります。ブッシュ家の選挙は中東での戦争をもたらし、オバマ大統領の選挙はオバマケアをもたらしました。これらは多くの人が災害であったり多くの支出を必要とするものであったり、また戦争や「アラブの春」のようにリビアやイラク、シリアで何百万もの人々の命を奪うものでした。

 

スーパー代議員

翻って民主党側ですが、代議員のみならず「スーパー代議員」という人たちがいます。スーパー代議員は事前に決められる人たち、または「自動的に議席が割り当てられた人たち」のこと [2]。共和党にはこのような人たちはいませんが、民主党側では各州から3名のスーパー代議員が全国党大会に向けて選出。従って2472名の代議員のうち150名がスーパー代議員となります。これは予備選では決して小さな数字ではありません。代議員は投票者の代表ですが、さていったい、この「スーパー代議員」とは何者なのでしょうか?

Wikipediaによれば、スーパー代議員は「選出された民主党全国委員会の委員で、元大統領・元副大統領・元議会指導者・現職の民主党の知事や国会議員など著名な党幹部」と定義されています。一般的な投票者にとって、前述の人たちは全て特定の利益団体と繋がりやすいとみなされます。その好例が、クリントン氏が問われている事象ですね。現在クリントン氏を支持するスーパー代議員は513名、一方サンダース氏支持のスーパー代議員は38名と、クリントン氏が首位を走っています [3]。しかし一方で、一部のスーパー代議員はサンダース氏に鞍替えするとか、サンダース氏にもスーパー代議員を勝ち取る秘策があるなどとも言われています。

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Photos from Wikipedia

 

4月25日現在、候補者指名に必要な代議員獲得数2383人のうち、クリントン氏の獲得代議員数は1941人、対するサンダース氏は1191人です。残る代議員数は1633人で、一見するとクリントン氏が余裕で勝利しそうな勢いです。特にニューヨーク州での勝利は、彼女を優位に導きました。

 

[1] www.bloomberg.com/politics/graphics/2016-delegate-tracker/

[2] en.wikipedia.org/wiki/Superdelegate

[3] 1とリンク同じ

 

ダニエル・ペンソ

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米オレゴン州在住の日英翻訳家。1999年〜2009年の約10年間住んでいた東京を”第2の故郷”と呼ぶ。趣味は旅行、語学、食。日本への旅行時には落語を楽しむ。
*ダニエル氏の詳細は以下のページをご覧下さい。 
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*ダニエル氏の意見は、My Eyes Tokyoとは関係ありません。

 

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