平 皓瑛さん & GOOPA
インタビュー&構成:徳橋功
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Hiroaki Taira
起業家
イノベーションを起こさないスタートアップに存在価値は無い。
今回は青春時代をシリコンバレーで過ごしたIT起業家をご紹介します。
平 皓瑛(たいら・ひろあき)さん。お父様のお仕事のご都合で日本中を転々とした後、ご家族でシリコンバレーに引っ越しました。しかし起業するはるか前にベンチャーの聖地から去ってしまいました。
やがて平さんが目を向けたのは、IT分野では途上国であるタイでした。完成されたマーケットではなく、今後の可能性に賭けて開墾されていない地を目指しました。また一方で、彼は古い体質が今も続くアニメ業界にも変革を起こそうと、秘かに刃を研いでいます。
シリコンバレーのDNAである「ベンチャースピリット」は、確実に平さんの遺伝子に組み込まれていたのです。
*インタビュー@渋谷
*英語版はこちらから!
シリコンバレー少年、ITに興味なし
半導体のエンジニアである私の父は転勤族でした。それゆえに私を含めた家族も移動を繰り返しました。私は千葉県内の病院で生まれ、すぐに大阪に移動、それから青葉台(横浜)、三重県四日市市、そしてアメリカのシリコンバレーです。インテルが伸びていた時代にアメリカでの半導体の需要が増し、父はシリコンバレーでの工場立ち上げのメンバーに抜擢されたのです。それに私たち家族も同行しました。
私たちが住んでいたのは、カリフォルニア州サンノゼ市。アップルやグーグルの本社が集まるシリコンバレーの中心都市です。そう言うと「すごい!」と思われるかもしれませんが、娯楽が無い街ですから、やることと言えばジム通い、映画鑑賞、スタバでお茶するくらいでした(笑)看板を見て「アドベって何だ?」と思ったらAdobeだったり(笑)当時はあまりITに興味がなかったのです。
でも思い起こせば、私が通っていた小学校のパソコンは全部アップルの「iMac」でした。同級生もいわゆる「ガレージベンチャー」の子どもたちが多かった。しかも大半がアジア系でした。彼らは上昇志向が強く、スタンフォードやハーバード、UCバークレーなどの超ハイレベルな大学を目指していました。
一方で私はピクサーの作品に影響を受けてアニメに興味を持ち、マンガやアニメを専攻できる大学を進学先として考えました。それも日本の大学です。約8年間のシリコンバレー生活は幕を閉じ、日本に帰国。「mixi」と出会って始めてITの楽しさに気づいたのです。もう少し早く気づけよって言われそうですね(笑)
前人未到の市場
現在は日本とタイに拠点を持ち、IT関連事業を行っています。タイはリゾート地としてもすごく栄えていますし、日本から比較的近い。旅費も安いですし、現地での物価も安いです。英語を理解する人も少なくない印象です。ですがこれまで日本企業は、工業製品の生産拠点としかタイを見てこなかったように感じます。
しかしその一方で、International Data Corporation(IDC)による予測では、タイのITサービスの市場規模が、2015年には他の東南アジア諸国のそれを上回ると予想されています。
実際に、タイではスマートフォンのユーザー数が急激に伸びていました。それは私がバンコクで肌で感じたことでした。インターネット人口よりもスマホ人口の方が圧倒的に多いくらいです。この分野をしっかり押さえておかないと絶対に損をすると思いました。そこで今年4月、私たちはアプリの開発に乗り出しました。
バンコクにある弊社の拠点には、現在デザイナーが3名、開発が3名おり、これまでにお子さん用の英語教育アプリ(Cuddly ABC)をリリースし、現在はゴスロリ系の写真デコレーションアプリ、車社会のタイに必要な燃費計算アプリ、バス釣りのルアー選びアプリをリリースに向けて開発しています。
タイのインターネット普及率は10%程度で、しかも一般的にはADSL回線です。これは一見マイナス要因に思えますが、逆に言えばこれからのタイのIT業界のトレンドはスマートフォンと、それに付随するアプリが中心となるでしょう。つまり、アプリ市場としてのタイは非常に可能性を秘めた場所だと言えると思います。
子育て中のお母さんにお勧めしたい英語教育アプリ「Cuddly ABC」
AppStoreリンク:http://itunes.apple.com/app/id550972790
日本とタイの橋になる
開発や制作だけをタイで行い、マーケティングやプロモーションを日本側で行うよりも、現地の人々のニーズを知っているタイのスタッフにマーケティングから開発まで一貫して依頼する方が、今後のタイを始めとする東南アジア展開には絶対に有利です。そこで日本企業に「タイでの開発+タイ国内でのプロモーション」をセットで売り込む。それが社長である私の仕事です。いわば、私が日本とタイの「橋」として活動しているのです。
そしてアプリ制作以外にも、私たちは2012年11月末に「Launchpad」(ラウンチパッド)というコワーキングスペースを、タイの首都バンコクにオープンする予定です。ここもタイのIT市場と日本のベンチャーをつなぐ「橋」として機能させたいと考えています。
私たちがLaunchpadの設立を考えたのは、バンコクでのオフィス探しの難しさに直面したことがきっかけでした。バンコクでは2~3人分のスペースか、ものすごく広いスペースのどちらかしかなく、10人前後の人員にちょうど良い広さの物件が見つかりませんでした。つまりこれは、バンコクで起業をしようとする人たちが同様に直面する問題でもあります。だから、自分たちの問題を解決すると同時に、これからのスタートアップの問題も解決できたらいいね、という話をしていました。
そこへ来て、弊社の共同経営者であるタイ人が、物件を見つけてきました。その人のお父さんが不動産会社を経営しており、彼が所有する物件の1階が空いたのです。そこを私たちが使わせていただくとともに、将来的にはタイのベンチャー企業を支援するインキュベーション機能も果たせるようにしたいと思いました。そしてやがては、海外からタイに進出する際の拠点として使っていただきたいと考えました。
先ほど申し上げたように、タイのITマーケットは非常に有望です。あと1年もすれば、これまでインドネシアやシンガポール、ベトナムに目を向けていたIT企業が、タイにどっと押し寄せて来るでしょう。その時にこのLaunchpadが、タイのITマーケットのハブ、つまり中心でありたいと思っています。
運命の出会い
私がこれほどまでにタイにこだわるのは、単に市場が魅力的であることだけが理由ではありません。きっかけは、一人の男との出会いです。
私は大学4年の時、アメリカ東海岸にあるカーネギーメロン大学に留学しました。半年間だけの交換留学でしたが、経営学を専攻しました。日本では全国でも数少ない、アニメを専攻できる大学に在籍していたのですが、アメリカでは全く別の経営や会計を学びたいと思いました。
幸いなことに、少年期にアメリカにいたおかげで英語も苦ではなかったので、パーティーにもどんどん参加しました。半年間という短い期間で、できるだけたくさんの人に会い、たくさんの経験をしようと思ったからです。そのような交流活動の中で、弊社の共同経営者であるタイ人、ヴィンセントと出会ったのです。先ほど申し上げたLaunchpadの物件を見つけたのは彼です。
ヴィンセントは当時、すでに起業をしていました。彼のお父さんはタイで穀物事業と不動産事業を営んでいましたが、お父さんのお金を一切アテにせず、自分で資金調達をして起業をしていたのです。彼とはすぐに意気投合し、毎週のように会うようになりました。なぜそんな優秀な人と私が波長が合ったのかは分かりません(笑)その当時は「将来、何か一緒にやりたいね」とは話していましたが、具体的なビジネスの話はしませんでした。
国を越えた共同起業
半年のアメリカ留学期間が終わり、私は日本に帰りました。やがてヴィンセントもカーネギーメロンを卒業し、会社を閉めてタイに帰りました。そしてお互いが大学を卒業した後、私は日本の広告制作会社に、彼はタイのロイターに入社してITコンサルタントになりました。
しばらくして、彼が日本に来ました。彼の目的地は北海道だったので、私も行きました。そこで「一緒にビジネスをしよう!」という話になったのです。
カーネギーメロン大学に留学していた当時、私は漠然と”出会い”をキーワードにしたビジネスをいずれはやってみたいと考えました。私はカーネギーメロンに行くことでアニメだけではない世界に接し、また多種多様なバックグラウンドの人たちが世界中から集まっていた大学なので、考え方も同じく多種多様なのだということに気がつきました。そして何よりも、運命のビジネスパートナーに出会えました。人との出会いは人生においてすごく大事なものだということを実感したのです。
それからヴィンセントがタイに戻る機中、私が東京に戻る機中でビジネスアイデアを紙に書きなぐり、お互いが家に着いてからスカイプでミーティングをして「グループ同士が出会うSNS」を開発しました。弊社の名前と同じ「GOOPA」というサービスです。アプリではなく、ウェブサービスからの出発でした。
東南アジアでトップに立つ
思えば私たちは、これまでずっと誰かと誰かをつなぐ「橋」として活動してきました。SNSでグループとグループをつなぎ、アプリ開発で日本のIT企業とタイのチームをつないできました。そして今度は「Launchpad」で日本のIT企業とタイのIT市場をつなぎます。
さらに私たちは、タイの投資家とのパイプを築くことも考えています。これまでタイの投資家は、穀物や不動産など目に見えるモノに投資をしてきました。一方でヴィンセントによれば、彼らは他に新しい投資先を探しているとのこと。しかしITへの投資にはまだ及び腰・・・なぜならITは彼らにとって未知の分野だからです。そんなタイの投資家たちとのコネクションを作った上で、投資家たちにIT産業についての教育をし、IT起業家とマッチングさせる。そのための場所としてもLaunchpadを活用したいと考えています。ただし、そのためには経験豊富な日本のインキュベーション施設との連携が不可欠です。
アプリの開発からマーケティング、プロモーションまで手がけることができるチームが運営するコワーキングスペース。だからこそ東南アジアの拠点として、日本のIT企業に使っていただく価値があると思うのです。この価値を彼らに提供することで「タイに進出する時はGOOPAにお願いしよう」と言われるようになるつもりです。そして少しずつ私たちの拠点を増やしていき、やがては「東南アジアに進出する時はGOOPAにお願いしよう」と言われるまでになりたいと思っています。
Goopaタイチーム&平さん
向かって一番右端がヴィンセントさん。平さんの右隣がCTOのサムさん
日本と世界をつなぐ橋に
私の夢は、アジアに留まりません。日本と世界をつなぐ橋を作りたいと思っています。ただしITではなく、アニメの分野です。
私がシリコンバレーの高校に通っていた当時、ディズニーやピクサーが作るアニメの洗礼を受けました。そして高校生の未熟さもあったかもしれませんが「なぜ日本からは、ディズニーやピクサーが出てこないのだろう?」と思いました。自らの手でその規模のアニメを生み出したい – そんな思いを抱いて日本に帰国し、アニメを専攻できる大学に入学しました。
しかし実際は日本のアニメーターの大半が薄給に苦しみ、20代の離職率は50〜80%に達しています。一方でディズニーやピクサーには、1000万円プレーヤーがゴロゴロいます。日本からそれらに匹敵する規模のアニメが出てこないわけです。
日本のアニメ制作会社にお金が入らないのは、制作委員会システムにその原因があると思います。今の日本のアニメ映画は、制作時に制作委員会を作ります。その委員会には資金の足りないアニメ制作会社は入れず、結果として大手メディア会社ばかりが名を連ねることになり、著作権も制作委員会に持っていかれ、その映画がどんなにヒットしてもアニメ制作会社には継続的な一切の権利収入が入らなくなります。
そこで私たちは、日本のアニメ制作会社に今もなお欠けている資金力とセルフ・ブランディング力を高めるために、アニメに特化したクラウドファンディングシステムを立ち上げたいと考えています。そして世界中の人たちから広く資金を募ることで、海外での日本のアニメのプレゼンスを高めていきます。また、いわゆる”オタク”層だけでなく、もっと広い層にアピールするきっかけを作ります。
そしてクラウドファンディングを通じて資金を得、事前に出資者(=ファン)を集め、実際に完成の日の目を見たアニメには、それらを配信するためのプラットフォームを用意する。自らが作ったものを自ら配信するわけですから、制作会社の著作権は守られ、権利収入は制作会社に入ります。それと同時に事前のマーケティングが容易に可能になるわけです。そしてその配信媒体は、テレビや映画ではなく、モバイルで考えています。しかも1話5分くらいの作品がいくつもある「オンデマンド方式」です。そしてその次の段階として、劇場での上映もあり得ます。
さらに、もし海外からその作品を二次利用したいというオファーが来たら、私たちが「橋」となって制作者と海外バイヤーをつなぎます。同じように、原案者と制作者をつなぐ「橋」にもなりたいと思います。そのような「橋」を築くことで、最終的にはアニメーター個人個人にきちんと収入が入るシステムを作りたいと考えています。
「イノベーションを起こさないスタートアップに、存在価値は無い」。これはあるスタートアップ支援をされている弁護士の方がおっしゃっていた言葉です。私はこの言葉に大変感銘を受け、そのつもりでタイのチームと共に日々事業に取り組んでいます。
活気のある東南アジア市場と日本のベンチャー企業をつなぐ。日本のアニメ制作者と世界中のアニメファンをつなぐ。それらを通じて日本社会に活気を吹き込み、日本を元気にしたい。それが私の夢です。
平さん関連リンク
GOOPA Inc.: http://www.facebook.com/GOOPA.Inc
ChargedConcept Co., Ltd.:http://www.facebook.com/chargedconcept
Launchpad:http://www.facebook.com/launchpadhq
Cuddly ABC:http://itunes.apple.com/app/id550972790
皓映君
お久しぶりです。お父さんの友達で、そして明仁や法光の父親の柏通宏です。
元気でやってますか。会社は順調ですか。お父さんは本当に残念でしたね。
ノリからヒロアキ君の立ち上げた会社のことを教えて貰いました。
面白そうな仕事ですね。
その中でタイの投資家との連携についても書かれていたので、もしかすると私の友人(ベトナム人)が始めた会社の力になってくれるかもと思い連絡しました。
簡単に言うとゲームとSNS、そしてポイント取引を合わせたようなビジネスです。
現時点では20万ドル程投資して貰えるエンジェルを探しています。
もし興味があれば資料を送りますので、メイルをください。
柏 通宏