“日本語パートナーズ”帰国報告会 イベントレポート

取材&構成:徳橋功
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7月29日、東京・四谷にある国際交流基金内において「“日本語パートナーズ”帰国報告会」が開催されました。

ASEAN諸国で日本語指導にあたる現地教師のアシスタントとして授業運営に携わったり、派遣先の学校の生徒さんや地域の人たちと日本文化の紹介を通じた交流活動を行うことを活動の柱とする“日本語パートナーズ”。ASEAN諸国の現地の日本語教師のパートナー役として、日本語教育を支援する日本人を、東京オリンピックが開催される2020年までに約3000人派遣するという壮大なプロジェクトです。

その規模もさることながら、対象となる年齢層も20歳~69歳と幅広く、しかも日本語教育の経験の有無は問わない・・・そんな斬新な事業ゆえに高い関心を集め、学生さんや主婦の方、ご退職された方、日本語教師、さらには歌手の方など、様々なバックグラウンドを持つ方々からの応募があったそうです。

今回はこの事業を担当する国際交流基金アジアセンターの主催のもと、“日本語パートナーズ”初年度の参加者計4名による活動報告が行われ、応募を考えている方々へのメッセージもありました。

写真提供:国際交流基金 *クレジットの無い写真のみ

 

報告者の皆さん

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土屋円(つちや まどか)さん
韓国語専攻の大学4年生。アジアで活躍することを目標に英語や中国語も勉強。台湾や中国への留学経験あり。“日本語パートナーズ”インドネシア1期参加者として、大学を1年間休学し、インドネシアの首都ジャカルタへ9ヶ月間赴任。社会福祉を学ぶ360人の現地高校生への日本語指導に携わる。

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佐藤紀(さとう のり)さん
日本語教師経験あり。過去にインドネシア滞在、その経験を生かし日本の絵本をインドネシア語に翻訳するボランティアをされていたことも。“日本語パートナーズ”インドネシア2期参加者として、インドネシアの首都ジャカルタへ5ヶ月間赴任。現地公立高校の1・2年生が必修科目として学ぶ日本語の授業に携わる。

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那須英夫(なす ひでお)さん
保険会社退職後、日本語教師養成講座を受講。日本語指導ボランティアを経験。“日本語パートナーズ”ベトナム1期参加者として、ベトナムの首都ハノイへ半年間赴任。市中心部にある高校2校と中学校6校、計35クラス・計1200名の生徒への日本語指導に携わる。

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小池拓也(こいけ たくや)さん
土木工学専攻の大学院生。“日本語パートナーズ”ベトナム1期参加者として、ベトナム最大の都市ホーチミンへ半年間赴任。高校3校と中学校2校、計24クラス・計937名の生徒への日本語指導に携わる。

 

活動報告

1. 土屋円さん(インドネシア1期 派遣先:ジャカルタ)

現地では毎週金曜日に着るという“クバヤ”という衣装に身を包んでのご報告です。
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日本でインドネシア出身の人たちに接し、彼らの宗教、肌の色、ライフスタイルがそれぞれで違ったことに興味を持ち、インドネシア赴任を志望しました。また、インドネシアの学生さんたちに日本や世界、外国語に関わるきっかけを提供したいと思い、“日本語パートナーズ”事業に参加しました。私が担当したのは日本語の発音や、日本文化に関するプレゼンです。他にも書道や折り紙、お寿司作り体験もしました。また孤児院で日本の文化紹介をしたり、南ジャカルタの日本語教室でボランティアとして日本語を教えていました。

毎日が刺激的でした。いろんな場所でたくさんの人たちに出会えたことが私の財産です。思い通りにならないことはたくさんありましたし、辛いこともありました。それらを受け止められる心の広い人に、アジアで頑張ってほしいと思います。

 

2. 佐藤紀さん(インドネシア2期 派遣先:ジャカルタ)

こちらも“クバヤ”に身を包んでのご報告です。
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驚くことに、生徒さんたちは“日本には季節が4つある”ことや、春がだいたい何月くらいかということを知りませんでした。しかも彼らの多くが「日本に行けば、いつでも桜が見られる」と思っていました。だから私は、日本文化の紹介を通じて日本のこと、日本文化のことにもっと関心を持ってもらったり、理解を深めてもらう機会を提供できればと思いました。でも逆に、私が行った文化紹介に対する生徒さんの反応を通じて、私自身が日本文化の良さに気づかされることもありました。

私がインドネシアの文化を学ぶ機会もありました。気づいたのは、インドネシアでは男女の生徒さん同士がとても仲良しなことでした。

約20年前にインドネシアに住んでいた私ですが、今回の“日本語パートナーズ”参加を通じて人の優しさ、食べ物のおいしさ、ジャワ更紗に代表される布の美しさなど、改めてインドネシアの魅力に気づきました。一方で、道の歩きやすさや発達した公共交通機関といった日本の素晴らしさにも気づきました。

そして仲間の素晴らしさに気づきました。ある時、1週間で400人もの生徒さんに浴衣の着付けをしなければならない、という難題にぶつかりました。そこで手を差し伸べてくれたのが、同じ“日本語パートナーズ”の仲間たちでした。

 

3. 那須英夫さん(ベトナム1期 派遣先:ハノイ)

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「行った!」「良かった!」「また行きたい!」というのが、今の素直な気持ちです。私は「自分自身が楽しく、幸せでなければ、生徒は楽しくない」と自分に言い聞かせて指導に臨みました。日本語指導方法をめぐっては、現地の8名の日本語の先生たちと一生懸命話し合い、共にクラスを作っていきました。そうするうちにお互いの信頼も生まれ、また生徒たちも私が来るのを歓迎してくれるようになりました。

私もクラスで文化紹介をしましたが、失敗することもありました。その度に、日本文化を知らない自分を思い知らされました。ここで心がけたのは「奇をてらわずに、基本のことを伝えよう。自分が知らないことは盛り込まないようにしよう」「一方的な講義型の説明ではなく、生徒が参加でき、体験できる仕掛けや仕組みを作ろう」ということでした。これらは派遣前の研修で、国際交流基金の先生方から教えていただいた内容です。おかげさまで現地の先生方の協力も得、赴任中の半年間に計45回の文化紹介を行うことができました。

相撲の紹介
相撲の紹介

そして学校外での人との交流。ここで心がけたのは「不気味な日本人になるな、愉快な日本人になろう!」ということでした。言葉の壁は確かにありましたが、覚えた言葉とジェスチャーで、どんどん近隣の人たちの輪に飛び込んでいきました。そうすれば人間同士、気持ちは通い合うもの。仲良くなった人たちとは、家族同然のお付き合いをさせていただきました。

国際交流基金からの支えへの感謝、現地の先生たちへの「日本語を教えてくれてありがとう」という感謝と尊敬、そして自分の強みと弱みに気づけたこと、これらが“日本語パートナーズ”事業参加での収穫です。

“パートナー”という響きが好きです。私たちは現地の日本語の先生のパートナー、日本語を学ぶ生徒さんたちのパートナーです。ただ、もうひとつの意味があります。それは“赴任国のパートナーになること”です。私は今後、何らかの形でより一層、ベトナムのパートナーになるための具体的な活動をしていきたいと思っています。

ASEANは皆さんを待っています。そして皆さん一人一人が立派な日本文化だと思います。“日本語パートナーズ”の醍醐味を、是非味わって下さい。

 

4. 小池拓也さん(ベトナム1期 派遣先:ホーチミン)

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私は留学経験も社会人経験も無く、その上一人暮らしすらもしたことがありませんでした。そんな私が“日本語パートナーズ”に応募した理由は、日本語を海外で学んでいる生徒さんたちに、机上では分からないことをリアルに感じ取っていただきたいと思ったからです。さらに自分自身が日本以外の国のことを知りたい、様々なことに挑戦して自分の価値観を広げたいと思い、参加しました。

私には、生徒さんと年齢が近いという強みがありました。だから友達感覚で、生徒さんからも私に対して日本語を使ってほしいと赴任前から思っていました。私が行った文化紹介の中では、折り紙が大人気でした。私が“折り紙”という言葉を発しただけで生徒さんは大騒ぎし、収拾が付かなくなるほどでした。他にはリサイクルに関する紹介。ホーチミンでは人が歩きながら道にゴミを捨てることがあったため、リサイクルに関しては力を入れて紹介しました。他にも年賀状を実際に他校の生徒さんに送る試みもしました。

何もかも初めて尽くしの中、大変なことは沢山ありましたが、それ以上に得られた喜びの方が大きかったと思います。

 

パネルトーク

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各参加者による報告の後、パネルトークが行われました。

Q. 現地の生徒さんは、日本に対してどのような印象を持っていましたか?

佐藤さん:インドネシアの生徒さんにとっては、日本はとにかく憧れの国。キレイでゴミが落ちていない国、そして人も交通機関も時間に正確だと言っていました。
那須さん:ベトナムではサッカーがスポーツの中で一番人気。だから本田選手や香川選手の名前を出したら、生徒さんから歓声が湧きました。他には、文化が進んでいて、安全でキレイ、人は勤勉というイメージですね。だからこそ、私は身の引き締まる思いで事業に関わらせていただきました。
小池さん:日本語を学んでいる生徒さんの中には「マンガやアニメで話されている日本語を聞けるようになりたい」ということがモチベーションになっている人も実際にいました。日本のポップカルチャーの持つ力の凄さを知りました。
土屋さん:物価が高い国。「日本に行きたいけど行けない」という悩みがあるようです。でも乳製品やお酒はジャカルタの方が東京よりも高いです。そのことを、日本のスーパーのチラシを見せることで伝えました。生徒さんにとっても新たな発見だったようです。

Q. 現地の先生や生徒さんたちの、日本語学習へのモチベーションや日本への関心に変化はありましたか?

佐藤さん:初めのうちは、生徒さんの間には「日本語で話すことなんて無理」という空気がありましたが、少しずつ会話ができるようになり、私がジャカルタを離れる頃には、日本語で冗談も言える子も出るほど、日本語でのコミュニケーション力が上がりました。
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撮影:徳橋功

那須さん:現地の先生の一人から「私は夏目漱石の“三四郎”を読んでいましたが、分からないので途中で止めました。もう一度読みたいので、分からないところを空き時間の間に説明してもらえますか?」と言われました。そこで私もインターネットで読み返し、勉強しました。“行間を読む”ことが必要とされ、そこでつまずかれたそうで、私自身もご質問に即答できないということが多々ありました。それと同時に、先生方の日本語教育に対する熱心さに心を打たれました。
小池さん:私は「日本語を発する時の気恥ずかしさを和らげられたら」という思いで、半年間生徒さんと密着しました。そのうちに生徒さんたちも私に気軽に話しかけてくれたり、私からの質問にもそれほど抵抗なく答えてくれるようになりました。

Q. 活動を通じて、ご自身には成長はありましたか?

土屋さん:イスラム教への考え方が変わりました。赴任前は「イスラム教は少し難しい宗教なのでは?みんなと一緒に生活できるかな?」と思っていましたが、実際に一緒に生活してみると、みんな心が開けていると感じました。それにイスラム教がインドネシアの生活や文化に入り込んでいて、とても興味深かったです。
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佐藤さん:何でも思い切ってチャレンジできるようになりました。そして「周りがどう思うか」よりも「自分が楽しむ」ことの方が大切ではないか、と考えるようになりました。それは現地の先生や生徒さんからの影響があると思います。あとは“声が大きくなった”ことです。
那須さん:1つ目は、コミュニケーション力の向上に一生懸命取り組んだことです。学校の外に出ると、日本語も英語も通じません。だからとにかく現地の人と「あなたとコミュニケーションを取りたいんだ」ということを、身振り手振りで表すしかありませんでした。思い切って“弾けてみた”という感じです。
2つ目は、大きな目標を見つけたことです。先ほど申し上げた“ベトナムのパートナーになる”ということですね。それに向けて具体的にどうするかを、今一生懸命考えています。
小池さん:“日本語パートナーズ”は、外国で公教育に関われるということが一番大きいと思います。その体験を通じて、教壇に立つことへの恥ずかしさがだんだん和らぎました。日本語指導の経験が無いから「応募するのを止めようか」と一度は思いましたが、今では参加して良かったと思います。だからもし応募を躊躇される方がいらしたら、ぜひ挑戦してみて下さい。

Q.インドネシアの魅力は?

土屋さん:特に私が好きなのは、お年寄りや教師に対する尊敬の念があることです。電車やバスでお年寄りや女性が乗ってきた時、席を譲ることがインドネシアでは当たり前です。
そして人と人の距離が近いこと。知り合い、友達になれば、もう家族みたいな存在になり、困っていたら助けてくれる。そんな距離の近さと人の優しさを感じました。

Q. ベトナムの魅力は?

那須さん:私が赴任したハノイの魅力は“人”です。ハノイの人はシャイというか、挨拶は交わすけれども、それ以上は言葉を交わさない傾向があります。それでもコミュニケーションを続けていれば、だんだん顔の表情が緩んで、やがては私の顔を見たら向こうから飛んで来るくらいになりました。親しくなればなるほど距離が縮まりました。それは私が子どもの頃のご近所付き合いに似ており、懐かしさを感じました。
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小池さん:ホーチミンの魅力、まずは食べ物です。どれも美味しく、日本人の口に合います。そして、若い人が多く街に活気があります。でも目上の人に対する尊敬の念があり、お年寄りに席を譲ることが徹底されています。

Q. “日本語パートナーズ”の経験や、赴任地とのつながりを今後どのように生かしていきたいですか?

土屋さん:現在就職活動をしていますが、仕事を探すにあたって東南アジア、中でも私が好きなインドネシアに貢献できるような仕事を探しています。あと小さな夢ですが、2年後の5月頃に、私が日本語を教えていた生徒さんたちの卒業式に参加し、彼らの成長ぶりや、どのような道に進むのかを見たいです。その日のためにインドネシア語を勉強していきたいと思います。
佐藤さん:以前から続けている、インドネシアの子どもたちへのボランティア活動に積極的に関わりたいです。また現地では“言葉が通じ合うことの楽しさ”を再発見しました。その経験を、今後の日本語教師活動に生かしていきたいと思います。
那須さん:もう一度、ベトナムに行きたいです。そしてベトナムに行った後、もう一度“日本語パートナーズ”に挑戦したいと思います。
小池さん:今でもSNSを通じてつながっている先生方や生徒さんとは、これからもつながり続けていきたいと思います。また、半年間の赴任中に「今後はアジアに関わる仕事がしたい」と思うようになったので、自分に合う仕事を探していこうと思います。
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それ以外に質疑応答タイムで「持っていって役に立ったものはありますか?」という質問がありました。ベトナム・ハノイに赴任した那須さんからは「忍者の装束が役に立った」、ベトナム・ホーチミンに赴任した小池さんは「必要なものはほぼ全て現地で揃えることができた」とのことでした。

 

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種類は違いますが、1年間のアメリカでの企業インターン経験を持つ私、My Eyes Tokyo編集長の徳橋は「もし時間が許せばこの“日本語パートナーズ”に参加したい!」と思ったほどです。米企業インターン当時の経験がベースとなってMy Eyes Tokyoを立ち上げた私、きっとたくさんの刺激を受けると思います。それゆえに、参加できなくて残念・・・

もしご興味を持たれた方は、そんな私の代わりに是非ご参加を!募集は2015年10月頃〜11月頃の開始とのこと。詳しくはこちらをご覧下さい。

 

関連リンク

国際交流基金アジアセンター:http://jfac.jp/
国際交流基金:https://www.jpf.go.jp/

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

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