ニコラ・パヴェシッチさん(クロアチア)
インタビュー&構成:徳橋功
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Nikola Pavesic
スタートアップを支援するスタートアップ企業経営者
twitter: @nikpavesic
僕がサンフランシスコに行くと、みんな言います。「日本のスタートアップについて聞かせてくれよ」って。今でも世界中の人にとって日本は、革新的で魅力的な国なのです。
私たちはある日、Twitter上でとてもユニークな求人サービスを見つけました。積極的に投資家からの資本を受け入れることで急成長を目指す”スタートアップ”と呼ばれる小さな企業に対してサービスを提供する会社です。しかも面白いのは、サービスの提供側に日本人がほとんどいないこと。言うなれば”日本のスタートアップをサポートする外国人リクルーター集団”。私たちは彼らのアイデアに心から惹かれると共に、強い感謝の気持ちを抱きました。
その求人サービスの名前は“JUSTA”(ジャスタ)。レッド・ブリック・ベンチャーズというベンチャーキャピタルの支援を受けたクロアチア人男性によって設立された、東京発のベンチャー企業です。
私たちがTwitter上で「こんな会社があるんだ!ぜひインタビューをさせていただきたい!」と呟くと、すぐに「ぜひインタビューしてください」とメンションが入りました。
そのメンション主は、JUSTA代表ニコラ・パベシッチさん。ラグビーが大好きな肉体派でありながら、すごく気さくでユーモアにあふれた人です。ご同席された素敵なJUSTAチームの方々と一緒に、笑いにあふれたとっても楽しいひと時を過ごすことができました。
そして、私たちは彼の言葉にとても勇気づけられました。それはどんな言葉でしょうか・・・続きはインタビューをご覧くださいね!
*インタビュー@Streamers Coffee(渋谷区神宮前)
*日本語訳:田中千恵子
英語版はこちらから
人材採用システムを変え、”エコシステム”をサポートしたい
スタートアップはとても生き生きしています。彼らは昨日までの私たちの暮らしをもっと良くするような便利なサービスを日々考えています。そしてひとたび世界を変えるようなアイデアが出たら、それを形にするために必要な人材を確保したいと、どのスタートアップも考えます。でも、日本の採用プロセスだと人材確保にとても時間がかかります。
そこで僕らは、日本の採用システムを変えることで、日本のスタートアップをサポートしたいと思いました。そして”エコシステム”、つまりスタートアップ育成の仕組みを彼らと一緒にこの日本に作りたいと思いました。あるスタートアップが資金を調達し、そのお金で作ったプロダクトやサービスがヒットして企業が大きくなり、やがてその会社が新たに生まれたスタートアップに投資し、大きく育てる・・・そのような好循環を、この日本に生み出したいのです。例えるなら、植物がよく育つように室温を調節する役割を担いたい。それが僕らの目標です。
僕は2014年4月に日本のスタートアップ支援を始めました。そして同年8月、求職者が仕事に応募でき、企業が求人を掲載できるサービス”JUSTA”をローンチしました。先日ベータ版でのテストを終え、有料オプションを含んだサービスを正式にリリースしました。このJUSTAで、僕らは雇用や人脈の拡大を促進し、新しいスタートアップ・コミュニティを創造していきたいと思っています。
現在、弊社には100社を超すクライアントがいます。ほとんどは日本の会社です。一方、求職者は主に日本人で、中には日英バイリンガルもいます。また、日本に住み、日本文化にも精通した外国人もいます。彼らは日本語が堪能で、エンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーとしても優秀です。彼らは日本に長期滞在し、日本のスタートアップで働くことを希望しています。僕らは彼らのことも支援したいと思っています。
僕がJUSTAを起業した理由の一つに、自分が求職活動で感じた”ズレ”があります。世界的に有名なLinkedIn(リンクトイン)、またはそれに類するジョブ・マッチングサービスから「あなたにはこの仕事がぴったりです!」というメールを受け取ったことがあります。でも本当のところ、僕にとってぴったりの仕事と言えるような代物ではありませんでした。だから僕は、職種とそれに合う人材の絞り込みのプロセスの改善に力を入れ、真に適材適所の採用活動が行えるようにしたいと思いました。
最も大切なこと – それは「JUSTAを使えば採用コストが劇的に下がる」ということです。日本の採用活動がお金が掛かりすぎる一方、僕らはそのコストを下げる方法を見つけつつあります。従来のような高コストの人材雇用システムを利用するだけの資金力がないスタートアップにも、利用していただける仕組みを僕たちは作ったのです。
大組織で経験したスタートアップ
僕らの大きな目標のひとつとして、若い世代がスタートアップにどんどん就職することを後押ししたいと思っています。創業間もないスタートアップは、大企業に比べて不安定かもしれません。でも世の中を変える大きな可能性を秘めています。そのような場所で働くことを是非とも考えて欲しいし、日本の従来のキャリア選択に代わる選択肢として考えてみて欲しいんです。大企業は確かにすごいですよ。でも若い人や学生、それに初めて働こうとする人にとって、スタートアップのようにとても活力に満ちた環境で働くのは、彼らにとって絶好のチャンスになるはずなんです。会社や市場が急激に成長する状況に身を置くことで、彼らはあらゆるスキルをそこで学ぶことができると思うし、僕らはその経験が、彼らの将来のキャリア形成において、すごく役に立つと信じています。
僕はかつて弁護士をしていました。そして2011年から2年半、僕は国連東京オフィス(国連大学)で大きなプロジェクトのリーダーを務めました。国連という大きな組織の中のIT部門でリーダーとして働くことで、僕はテクノロジーの可能性を実感しました。僕は常に改善と挑戦を考えている人間で、それは国連に行っても同じでした。僕は国連を変えたいと思ったから、即時の説明責任や完全な透明性を組織に導入しました。
実際に僕の国連での仕事は、巨大な官僚組織という特殊な環境下にあるスタートアップを運営するようなものでした。大きなプロジェクトのために小さなチームを作り、小さいながらも壮大なテーマに取り組んで、革新的なものを生み出すことに挑戦する。そうするうちに僕は、ITの世界に深くかかわるようになりました。そこで学んだのは、どんなにチームが小さくても、飛躍的に成長することだってできるし、大企業を打ち負かすことだってできる可能性があるということでした。もちろん、それはとても大変なことです。でも、皆さんがそれを成し遂げることはできます。それこそがテクノロジーとスタートアップの素晴らしさであり、大企業との力の差なんて、本当はいとも簡単に埋められるものなのです。
国連での経験の後、僕は東京のスタートアップ・コミュニティに飛び込み、スタートアップが秘める可能性について学びました。これが、僕がスタートアップを支援しようと決心した理由です。
日本には巨額の資金がありますし、今もなお世界第3位の経済大国です。豊富なベンチャーキャピタルがあり、素晴らしいアイディアに投資する資金がある。日本の高水準の教育のおかげで、素晴らしいアイデアもたくさん生まれています。さらに言うと、日本のエンジニアの給料がシリコンバレーのそれに比べて極めて安いことも、日本にとって有利に働きます。
僕らはこれらの要素を全て束ねたような、お互いが求める人材に出会える場を作りたいと思っています。ベンチャーキャピタルがスタートアップを見つけ、能力のある人材がスタートアップに出会い、スタートアップが資金と人材を調達できるような場ですね。これら全てを結びつけることで、可能性はすごく広がるでしょう。僕が先ほど申したように、ひとたびエコシステムを作れば、全てが急速に成長するんです。
そして日本のスタートアップの状況は、この一年で大きな変化を迎えるでしょう。できれば、もっと女性も巻き込んでいきたいですね。女性の活躍については、日本は早急に改善していかなければいけないと思います。
日本は今でもすごい
僕は、世界がどれだけ日本に対して良いイメージを持ち、どれだけ世界で日本の評判が良いかに、日本の人たち自身が気づいていないのではないかと思います。例えばヨーロッパでは、誰もが日本製品は最高だと思っている。カメラ、車、携帯電話、ファッション、デザイン・・・日本から来たものは、クオリティが素晴らしいと誰もが思っているんです。これらのイメージはこの50〜60年で培われました。
僕がサンフランシスコに行くと、皆が日本のスタートアップについて聞いてきます。「ベンチャー企業は日本に何社ぐらいあるのか?」「どんなプロダクトが日本のベンチャー市場で生み出されているのか?」「そもそも日本にスタートアップはあるのか?」「日本のベンチャーコミュニティはどんな感じ?」「ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家は日本にいるのか?」という具合です。彼らは日本のこれまでの歴史が革新の歴史だと知っています。でも彼らは、日本の新しいスタートアップや、それらが生み出した新しいモノについて何も知らない。せいぜい「Tech in Asia」というアジアのスタートアップを特集するメディアのちょっとした記事で知るか、同様の英語メディアで少し知る程度です。でも日本のスタートアップシーンで起きていること全てが網羅されている場がありません。
そのような理由から、JUSTAは完全バイリンガルのサービスを提供しています。僕らのクライアントや、僕らのサービスで求人を探す人たちの多くが日本人であるにも関わらずそうしたのは、日本のスタートアップを全世界に広く知らしめるためです。
世界の人々は、日本は良い意味で”クレイジー”だと思っています。日本のアートやファッション、デザイン、文化はとても個性的です。世界はそんな日本のことをもっと知りたいと思っています。日本は”未来”そのもの。だから世界は日本にクレイジーなものを生み出してほしいと思っています。日本は驚くほどの成功と変貌を遂げた国として、他の国の人たちから常に尊敬の眼差しが向けられています。
でも一方で、日本企業はとても謙虚です。自分自身の価値に気づいていない。だから、日本で何が起きているのかを伝える手段が必要なんです。日本で生まれた素晴らしいモノを世界に伝える場です。日本の素晴らしいモノは、海外で大ブレイクする可能性があります。もし海外に広めたら、クオリティの高さと使い勝手の良さから、爆発的に人気が出るかもしれない。僕たちが日本の情報を海外に届けようとしているのは、こういった可能性があるからです。プロモーションは重要です。だから僕たちは、日本のプロダクトやアイディアを世界に向けて発信したいと思っています。
海外市場での失敗に言い訳はいらない
プロダクトの海外プロモーションに障害は付きものです。それでも、すべての障害を乗り越えなければなりません。私たちの日系のクライアントには、英語がそこまで得意ではない方もいらっしゃいますが、僕たちはそういう方々をサポートさせていただきたいと思っています。それに、きっと皆さんが世界を目指していると思うんです。彼らはプロダクトを世界中に広めるために、シリコンバレーやベルリン、イスラエルのテルアビブといった、世界中のスタートアップが集まる都市でビジネスパートナーを見つけなければなりませんし、それを可能にするための方法を見つけなくてはなりません。そうやって培われたネットワークやルートは、やがて日本進出を目指す外国の企業やスタートアップと、日本のマーケットについて膨大な知識を持つ人々いずれにも役立つものになると思います。
僕たちは、言語の壁は大きな障害だとは思っていません。もちろん障害ではありますが、海外で成功しなかった時の言い訳にはなりません。
例えば”500 Startups”というシリコンバレー発の有名なシードアクセラレータ(起業したばかり、または会社設立前の”シード”と呼ばれるスタートアップに対して投資する人や事業体)がありますが、彼らはすでに東京のスタートアップ数社に投資しています。良いモノさえあれば、最終的には結果がついてくるものなのです。
障害は、ちょっとしたきっかけで大きなビジネスチャンスに変わる可能性があります。日本では翻訳が大きなファクターになっていますよね。だから日本のスタートアップから”Gengo”のようなクラウド翻訳サービスが生まれ、それらが大きな成功を収めたわけです。彼らは、2020年の東京オリンピックに向けて翻訳の需要が伸びると考えています。
巨大企業を作ることは、もはやゴールにはなりません。仮に皆さんのスタートアップが大企業に成長したとしても、今の時代はそれで終わりではなく、googleやFacebookのように、より良いコミュニティを作ることをミッションに据えた新しいタイプの会社にしていくのが、今の企業のあり方です。そして”エコシステム”の構築 – 会社を成長させ、新しい企業に投資する”エコシステム”を作る。この環境がシリコンバレーには整っています。でも、日本では残念ながらまだまだです。成功を収めた人であるにも関わらず、新しいアイディアに投資しようとしないという状況を時々耳にします。でも状況は良くなりつつあります。僕らは今、正しい道を歩んでいます。
情熱を持て、自分を信じよ
様々な人が、様々な道を経てスタートアップに参入する。それを見るのはとても興味深いです。でも、全ての起業家に共通している要素があります。それは”情熱”です。彼らがすることに対する情熱、彼らが生み出そうとするモノに対する情熱です。皆さんが何をするにしても、皆さんはその道を信じ、絶対に最高のプロダクトを生み出そうと思わなくてはいけません。そして、皆さんは常に変わり続けなければいけないし、生み出したものを改良し続けなければいけません。スタートアップという急激な成長曲線を描く環境にいる人たちに、僕は自分の中に燃える情熱を傾けたいと思っています。皆さんは前に進み続けなければならない。それはもちろん大変です。でも、とてもやりがいがあります。そしてリスクを恐れないで下さい。そして自分を信じて下さい。
もし私たちがスタートアップ企業を経営し、しかもこの日本に強固にネットワーク化されたエコシステムを作れたら、物事は大きく変化するでしょう。その変化の速度は、かなり速いものになると思いますね。
ニコラさんにとって、東京って何ですか?
東京は、今では僕の故郷のような場所です。
僕はこれまでに6つの国に住んできました。イタリア、イギリス、スイス、タンザニア、故郷のクロアチア、そして日本です。でもこの12年間で、東京ほど長く住み続けた街はどこにもありませんでした。休暇を取ったらクロアチアに帰るけれど、精神的には東京に戻った時の方が「帰ってきたな」という気持ちになるんですよね。
東京はスタートアップを始めるのにふさわしい場所です。でも、僕らはその環境をさらに良くしていきたい。僕らは東京を世界で一番スタートアップに最適な場所にしたいと思います!
ニコラさん関連リンク
JUSTA:https://justa.io/
JUSTA Facebookページ:facebook.com/justacommunity
JUSTA@Twitter:twitter.com/justajapan
ニコラさん@Twitter: twitter.com/nikpavesic