イスラエルのベンチャーが好きな人たちに会ってきました!
取材&構成:徳橋功
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最近、日本人にとっての「世界への窓」を標榜し始めたMy Eyes Tokyo日本語版。そんな私たちが今回お届けするのは、少しだけマニアックな内容です。題して「Startup Nation Meetup Vol.1 – 投資関係者、事業者、調査会社から見たイスラエル企業と日本企業の連携可能性」。主催者の方からプレスリリースが届いた時、難しそうなテーマに一瞬尻込みしそうになりました。
しかし勇気を出して会場に行くと、すごい人数の参加者が!イスラエルの、しかもベンチャーに関心を持つ人が、かの国から9000キロ以上離れたこの極東・日本にこんなにいたのか、と驚きました。またディスカッションは、私たちのようなイスラエル素人にも分かりやすいものでした。「オレたちがイスラエルでビジネスする理由」を語り合う会、と言えば分かりやすいでしょうか。
あらゆる国の人には出会っても、ある一国についての知識が少ないMy Eyes Tokyo。もちろんイスラエル出身の方にもお話をお伺いしたことがあります。ですが今回は、改めて別の角度からイスラエルを勉強させていただきました!
報告:徳橋功(My Eyes Tokyo主宰)
会場:サムライ・スタートアップ・アイランド(天王洲)
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まずは主催者である「ISRATECH」代表の加藤さんより、自身のビジネスやイスラエルのスタートアップについての概要説明から始まりました。
*ご本人のご都合により、写真掲載は控えさせていただきます。
2006年に初めてイスラエルを訪れて以来、加藤さんはイスラエルのスタートアップ企業を日本に紹介してきました。そのうちに多方面から問い合わせが来るようになり、2009年「ISRATECH」というメディアを立ち上げました。
そして2012年、日本の代表的インキュベーター(起業者の支援を行う事業者)のひとつ「サムライ・インキュベート」と合同で「サムライ・ベンチャー・サミット in イスラエル」というイベントをテルアビブ近郊で開催、その後イスラエルのハイテク分野のスタートアップと日本企業をつなぐ「ジャパン・イノベーション・センター」を立ち上げました。
イスラエルのスタートアップと日本企業のコラボレーションの実例はすでにあり、例えばイスラエルの自動車衝突防止補助システムメーカー”モービルアイ”と取引したのが日本の自動車部品メーカー”デンソー”でした。また、これは日本ではあまり知られていないことですが、”起業しやすい都市”ランキングで、テルアビブはシリコンバレーに次ぐ世界第2位に躍り出ています(詳しくはこちらをご覧下さい)。「米西海岸、東海岸を見たらイスラエルも見る」のが、世界のイノベーティブな人たちの常識となっていると加藤さんは言います。
また”イスラエルは危険な国”というイメージを持つ人たちは、このイベントの参加者にもいらっしゃいました。それに対して加藤さんは「そのような状況でも、たくさんのスタートアップ企業が生まれていることを、私たちはもっと一般常識として持っておいた方が良いのではないか」と述べました。
この後休憩を挟み、加藤さん含め5人のゲストを迎えてパネルディスカッションを行いました。いずれもイスラエルビジネスの最前線にいる精鋭です。
江副浩氏
iLand6(アイランドシックス)Capital and Development 取締役
1996年NTT 入社。2002年、日本とイスラエル間の企業提携のパイオニアであるトッド・ワルザー(Todd Walzer)氏と出会い、iLand6へ。現在は同社取締役。
春田篤志氏
Discretix(ディスクレティックス)カントリーマネージャー
日本企業数社でのエンジニア職を経て、Discretix 社 (本社イスラエル) にて日本でのセールスマネージャーに就任。2012年1月 より、同社の日本担当カントリーマネジャーを務める。
本藤孝氏
Fin Tech Global Capital合同会社 マネージングパートナー
アクセンチュアにてIT及びマネージメントコンサルタントとしてプロジェクトリーダーなどを務めた後、大和企業投資にてヨーロッパやイスラエルのベンチャー企業投資を担当。独立後、国内外のベンチャー企業への投資をするファンドを運営。現在、2社のイスラエルのベンチャー企業の取締役に従事。
樋原伸彦氏
早稲田大学ビジネススクール准教授
東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、世界銀行コンサルタント、通商産業研究所(現RIETI)客員研究員、サスカチュワン大学(カナダ)ビジネススクール助教授、立命館大学経営学部准教授などを経て2011年9月より現職。イスラエルのイノベーション・システムや投資部門に詳しい。
加藤さんの仕切りのもと、パネルディスカッションが始まりました。
① イスラエル企業と協業関係を結ぶに当たって注意すべきこと
● 江副氏
イスラエルで新しい技術が生まれた際、その技術をマーケットに流通させることは、誰もが未経験のこと。よって想定外の事故が多発する。今まで全く世の中に無かった技術は、ビジネスとして儲かる場合もあれば、それまで全く存在しなかったのは、存在する意味が無かったから、という可能性もある。そこを注意すべき。
● 本藤氏
イスラエル側はネゴシエーションが上手。ネゴシエーションにより開発した技術や製品の品質を高く見せて日本側に売り込もうとする場面がよくある。
● 春田氏
イスラエル側は誇張して自社の技術や製品をアピールするのが得意。日本側はそれを鵜呑みにせず、しっかり自分の基準で評価・判定することが大事。ただしあまり疑心暗鬼になりすぎると、一緒にビジネスできなくなる。だから品質など細かい点にこだわるよりは、イスラエル側のビジョンを重視するのが良いのではないか。
② イスラエルのスタートアップの特異性
● 樋原氏
他の国に比べて若い人が多い。兵役を終えてから大学に入るので、若くして内面が成熟するからか。また兵役期間中に築いたネットワークを用いて起業するケースが見られる。イスラエルは内需が乏しいので、必然的にグローバルに物事を考える必要に迫られる。
● 春田氏
今の会社に入った頃、ロードマップがハッキリしないまま行き当たりばったりで皆が製品開発を進めているように見えた。そこがアメリカ企業との違い。それでも様々なことを試した末、ひとたび方向性が定まれば、開発のスピードも早まり、良い物を作る。
③ なぜ、イスラエル企業に投資をするのか?
● 本藤氏
魅力的な企業が多いから。特にテクノロジーベンチャーには優秀な会社が多い。それは樋原さんがおっしゃったように、兵役で技術力と人的ネットワークを築いており、それにより技術力はもちろんチームワークも培っている。それらは投資を決める重要条件だ。
④ イスラエル企業の技術や製品を日本市場に持ってくる際の留意点
● 江副氏
日本には、イスラエルの高性能な技術に惹かれる人が多い。まずはその人たちをターゲットとしてマーケットに流してみる。そしてマーケティング調査をしたり売上を一定水準に維持しながら、改良版の完成を1~2年かけて待つ。特に軍用技術を民間転用させるのにそのくらいの時間が必要。逆に言えば、1~2年で汎用製品が作れるくらいのものを持ってくるのがベストだと思う。
⑤「アラブ・ボイコット」について
*アラブ・ボイコット:アラブ諸国による対イスラエル経済制裁。
● 樋原氏
イスラエル企業のチーフサイエンティストや政府関係者からは、会うたびに必ず「日本の経産省につないでくれ」と言われる。でも日本からは政治家や官僚、大企業関係者がイスラエルに行かないので、私がアンバサダー(大使)役を任されることになる。石油問題もあり彼らはイスラエルになかなか行けず、イスラエル関係のシンポジウムのパネルディスカッションにも参加しない。そういう状況は昔も今もそれほど変わりがない。でもそれは日本だけでなく、他の国でも同様だ。
しかしそれは、日本のベンチャー企業にとってはチャンスになる。大企業がアプローチできない場所に行けるからだ。
● 本藤氏
日本と同様に石油などの資源が無い国が、どのくらいイスラエルに進出しているか。例えば韓国はサムスンが膨大な人員を投入し、膨大な額の投資をしている。それでも韓国がアラブ諸国から石油の輸出を止められたという話は聞いたことがない。日本は気にし過ぎなのではないか、というのが個人的な見解だ。韓国に限らず他の国々もイスラエルに注目して投資をしているのに、日本だけ遅れている印象がある。知らないものを排除しがちな日本の大企業の、特に上層部の意識が変わっていかないと、ボトムアップでイスラエル投資につなげることは期待できない。
● 春田氏
イスラエル企業である当社と取引できないと言った日本の大手企業は、実際に存在する。ただし抜け道はある。イスラエル企業の多くがアメリカに法人を作っているので、そこと契約を結ぶという方法だ。
● 江副氏
アラブボイコットという言葉が人々を誤解させるが、アラブ人全員がイスラエルを嫌っているわけではない。一口にアラブ人と言えども、穏健派から過激派まで様々。一方で日本企業も、イスラエル企業とやり取りする際に”迂回ルート”を使うことには慣れているが、慣れていない企業からは”迂回ルート”に関する相談を頻繁に受ける。いずれのケースにも必ず合法的な抜け道はあるので、アラブボイコットにより日本企業と商売ができなくなるということは無い。
⑥ イスラエルの強みは何か?
● 本藤氏
イスラエルが世界的に優位なのは通信やセキュリティの分野。それはイスラエルが伝統的に徴兵制を敷いているからだが、それだけに留まらない。人口が少ないイスラエルでは、技術は攻撃よりも防衛、つまり「人を死なせない」ための技術が培われてきた。攻撃技術よりも、防衛技術の方が民間転用しやすいと思われ、それがイスラエルの通信・セキュリティ分野の発展に寄与したのではないか。
● 樋原氏
ICT(情報通信技術)分野が強い。例えばイギリスを見てみると、ケンブリッジやオックスフォードには世界的に優秀な人材が集まっているが、投資部門が発達しなかったためにベンチャーに資金が投入されなかった。それはヨーロッパ諸国も同様だ。一方でイスラエルは「ヨズマ」という政府系ファンドなど投資部門も充実している。
● 江副氏
イスラエルには通信システムや画像システムを得意とする企業が多くあるが、それらの技術の根本を探ると”数学”に行き着く。高性能技術を実現するためにコストを上げるわけにはいかず、計算で導き出した解を応用することにより技術面・コスト面共に解決させる。世界的に”負けにくい”技術には数学的裏付けに支えられている印象がある。
● 春田氏
イスラエルが強いのはウェブやクラウドなどのサービスではなく、無線やセキュリティ、材料工学、医療機器など物理学的な分野。
パネルディスカッション終了後、会場からのQ&A。こんな質問が飛び出しました。
Q. ユダヤ人(またはイスラエル人)はどんな人たちなんですか?
● 江副氏
「ユダヤ人は付き合いにくい人たちなのではないか」という先入観があった。しかし普段彼らと付き合っていると、日本人とあまり変わらない気がしてくる。根底が日本人と似ているのかもしれないと思う。だから違和感なく付き合うことができる。しかも勤勉で、メールの返信も早い。日本人をリスペクトしており、日本企業からのリクエストにはきちんと対応してくれる。
一方で、彼らは思ったよりも商売が上手くない。「こうやれば儲かるのに」と私が言えば「あ、そうだね」と気づく。そういうやり取りが頻繁にある。大阪商人や三河商人の方がよほど商売が上手なのでは。
● 春田氏
議論するのがすごく好き。その議論を取引先にもパートナーにも求める。議論をふっかけられることに対して受け身になっていると、イスラエル側は「日本の人たちは付き合いにくい」と考える。だからイスラエル側の出した意見について、日本での常識などに照らし合わせずに、思うがままに意見を言った方が良いと思う。
● 本藤氏
話すのが好きで、歩きながら携帯で話している人をよく見かける。春田さんがおっしゃった”議論好き”も正しくそう。イスラエルでのボードミーティング(取締役会・理事会)が一番エキサイティングで、6人のメンバーで3つのテーマを同時に話し合ったりしているほど。「意義あることを発言しよう」などと思っていては、議論からどんどん取り残されてしまう。
● 樋原氏
他の国の人と比較しても、日本人にとっては付き合いやすい相手だと思う。議論好きで、どんな意見でも聞いてくれる。だからイスラエル人との商売は極めてやりやすい。
・・・その後もイスラエルに関心の強い人たちから、かなり細かい質問が飛んでいました。
関連リンク
ISRATECH
ジャパン・イノベーション・センター
Samurai Venture Summit in Tel Aviv Vol.2 *英語
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