松尾公子さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Kimiko Matsuo
コーディネーター/グラフィックデザイナー
(ハーレムコネクション所属・2002年11月来米)

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男の人から「キレイだね」と言われたら、ニコッと笑って「サンキュー!」って言わないとね。

ニューヨークでのインタビュー、お二人目は前回のトミー富田さんの右腕として、ハーレムツアーのブッキングやツアーガイド、tommytomita.comの企画・制作・運営などをされている松尾公子さんです。

松尾さんはハーレムコネクションでのお仕事の他にも、ハーレムの高校で日本語を教えたり、また日本人が中心のゴスペルクワイアとしてニューヨークでも注目を集めている「ハーレム・ジャパニーズ・ゴスペル・クワイア」の聖歌隊のメンバーとしても活躍されています。 ハーレムならではの、ビックリするような話が満載です!

*インタビュー@ ニューヨーク市立大学シティカレッジ(マンハッタン138丁目)
*英語版はこちらから!

 

「ハーレム・ジャパニーズ・ゴスペル・クワイア」

ハーレムに日本人だけのゴスペルクワイアがあるってことを、ある人から教えていただいたんです。その人は、そのクワイアのオーガナイザーである日本人でした。

最初ここに来た時は、私はヒップホップとかR&Bが好きで、ゴスペルは全然、CDを買って聴くこともなかったんです。ただ、ゴスペルは全てのブラックミュージックのルーツだっていうことは知ってたので、体験してみたいと思って教会に行きました。

牧師さんから直に、300年以上前に自分の先祖が、アメリカに奴隷として連れてこられた時に、苦しい生活を少しでも癒すために神様に救いを求めて歌ったとか、自分の名字はこうなんだけど、これは白人の主人の名前であって、自分のアフリカの名字はどこかで捨てられている。だから自分たちにはヒストリーが無い・・・そういうことを聞くうちに、ゴスペルは黒人文化の中で、とても大切な存在なんだな、と思って、どんどんのめり込んだという感じです。

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歌詞自体は神様からの良い知らせ、「グッドニュース」を歌うことがゴスペルなので、歌詞を自分で歌いながら、歌詞を噛みしめて興奮して、泣き出したり倒れたりする人もいるし、それを聴いている人も、その歌詞で神様のことを考えて倒れたりとかね。そのまま亡くなる人もいるくらいです。その部分は共有できると思うんですよね。

ただ、昔の奴隷時代に自分たちだけの教会を作って、夜中にみんなで集まって、音が漏れないように、そこで一生懸命自分たちの音楽を歌ったという、そこまでさかのぼると、やっぱり共有は難しいです。でも、やっぱり神様のことを知ってもらいたいということで、みんな一生懸命私たちに教えてくださっているんだと思います。

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ハーレム・ジャパニーズ・ゴスペル・クワイアの紹介記事

 

ブラックカルチャー漬け

ニューヨーク生活は、まだわずか5年。ここに来たのはつい最近なんです。みんなから「こっちで生まれたのか」とか「あなたは日本人じゃない」みたいに言われるんですけどね(笑)

私は高校生の頃からブラックミュージックが好きで、いろいろ本を読んだりしているうちに、ブラックカルチャー全体に興味を持つようになりました。高校の終わり頃にはサーフィン仲間の大人たちからレゲエを教えてもらい、大学生から社会人の始めくらいまではディスコやクラブ狂いで、それもブラックミュージックがかかっているところばかり行ってました。

大学卒業後は日本のエンターテインメント系企業で広告宣伝の仕事をやっていたんですけど、日本というのはやっぱりJ-popが中心で、洋楽というのは意外と扱いが小さいんです。だから、仕事は一生懸命やってたけど、一番自分がやりたかったことは、思うほどにはできなかった。「こんなに素晴らしいレゲエの人が来日するのに何でこれを宣伝しないんだろう?」と思っても、それを宣伝できない、そういう悶々とした気持ちを抱えていました。

 

一か八かのハーレム移住

そういうことがありながら、年に2回くらいは自分で休みをとって海外に行ってリフレッシュするようにしてたんですが、たまたまニューヨークに来た時にトミー富田さんに会いました。

最初はただのツアー参加者だったんですけど、「あ、いいな、こんな本物に触れられていいな」って思いました。好きなことだけをやって生活しているっていうのがとっても良いなと思ったんです。それで何回かこちらに来てお会いするうちに、トミーさんも人手がいないということで「一緒にやらないか」って私に言ってきたんです。

私も日本でこのまま行っても先が見えるような気がしていました。だからもう一か八か、どうなるかわからないけれども、好きなことだけやって私も生活してみようと思いました。それで5年前にハーレムに来たんです。

 

「私、ここに住むかも」

ここに来た時は、こっちで本気でやるつもりでいました。だからいつか帰ろうとか、そういうことは全然考えずに、「自分というものを確立するまでは帰らない」という感じでした。その思いは今でもあります。

初めてここに来た時から、生活する人の視点で物事を見ていました。そこに住んでいる人とか、その周りの環境とか・・・興味を持って見る対象が、ただの旅行とは当時から違っていました。

ハーレムに来た時に、「あ、私ここに住むかも」という直感があったんです。ブラックカルチャーを体験できたり、黒人が住んでいる街というのはいっぱいあるけれども、ブラックカルチャーが凝縮されて、それが生活の中に普通にあるのはこの街だと思っているので。

ニューヨークの他の街、例えばブルックリンとかにも好きな街はあります。だけどそこに住もうという目では全然見ないんです。私が「住む」街は、最初からハーレムだと思っていました。だから日本からはそのまま、迷うことなくハーレムに直行。それで今に至ります。

ハーレムに来て最初の頃は、もう見るもの全部ワクワクしていました。街角でオジさんがボーッと椅子に座っているのも「映画で見たとおりだ!」って。何を見てもワクワクする感じでしたね。
でもやっぱり日本人の私たちの感覚からすると、「何で一日中働かないんだろう?」というのはあります。それで、先ほどのオジさんが何で座っているのかっていう理由が分かってくるんですね。

 

教会前の銃撃戦

今まで危険な目に遭うことなく過ごせています。危険な目に自分が遭ったこともないし、銃撃の現場に遭遇したこともありません。

ただ、私がゴスペルを歌っている教会の前で何十発も警官と撃ち合いになって人が殺されるという事件がありました。しかも、私がそこに行く前日ですよ。それで次の日教会に行くと、牧師さんが「窓から見たら、犯人が車の影に隠れて何十発も警官と撃ち合っていたんだよ」って、半ばおびえながら話していました。

あと、ジャズクラブで毎晩すごく真面目にベースを弾いていたベースプレーヤーが、アルカイダをサポートしていたということで突然逮捕される、なんてこともありました。2004年頃だったと思いますが、新聞やニュースに載っている写真が、昨日の夜見たアイツじゃないかって、みんなで言っていました。
そういう感じで、テレビニュースで見る事件の生の現場が身近にあるっていうのが結構あります。もしかしたら、流れ弾に当たっていたかもしれないですよね。

 

「女」を忘れさせない街

普通にレディーファーストの習慣がアメリカにはあります。でも特にハーレムでは、本当に女の人が気持ちよく生活できるんです。

なぜなら、みんながものすごく褒めてくれるから。歩いている時でも「ゴージャスだね!」って、ちゃんと褒めてくれるんですよ。それはお化粧なんかしてなくても同じなんだけど、そう言われると良い気持ちになるじゃないですか。やっぱり女の人は褒められて、自分が女であるということを意識しながら生きていかないと、女を忘れてしまって、パサパサの人間になってしまいますからね(笑)。ここではいつもそうやって自分が女性であることを気づかせてもらえるし、いつも褒めてくれるし、いつも良い気持ちにさせてもらえるんです。

ハーレムの女の人たちはみんな、外に出る時はセクシーな、胸の谷間を強調した洋服を着たりと、いつもキレイな格好をします。おばあさんでもそうですよ。それはやっぱり男の人が褒めてくれて、いつまでも自分が女であるということを忘れずに生活させてくれるからだと思うんです。その波に乗って、私もずっと勘違いして生きていきたいと思ってます(笑)

 

本物がすぐそこにある

ニューヨークの好きなところは、本物がすぐそこにあるということですよね。今までCDで聴いたりコンサートで見てきたミュージシャンが、すぐそこにいたり、時には自分の隣にいたり・・・そういう中に自分もいるっていうのがすごい嬉しいです。

一方で、サービスの質が悪いです(笑)。日本人はすごく礼儀正しいし、本当にサービスが行き届いていますけど、こっちではちょっと電話が故障しても、それを修理するのに一週間以上かかるなんてザラです。それでいて「お待たせして申し訳ありません」と言うこともない(笑)。長い間待たされて、その上「オレたちのどこが悪いんだ?」なんて逆ギレされたりします。そういうのはしょっちゅうです。

 

何もしないでも生きていける。でも、自分が何者でもなくなってしまう

何に関してもそうですけど、ニューヨークにはいろんな人種もいるから、縛りがないんですね。「いろんな人がいていい」っていう空気があるんです。だから、いろんなことに挑戦しやすいと思いますよ。日本みたく「こういうことを、この年代の自分が言うとバカにされる」とか、「この年代だとまだこういうことを言っちゃいけない」という遠慮とか「ナマイキすぎる」と言われたりとかは、ここでは無いです。どんな意見があってもいい。どんな意見があっても、その意見が良ければ受け入れられるんです。

ニューヨークでは、何かを持っている人が強いですよね。自分のやりたいことを持っている人。逆に、何かが無いと人は自分を紹介できないと思います。例えば人から自分のことを尋ねられた時に、「私はOLです」という答えは、ここではちょっと理解されないと思います。「私は社会人です」とか、そんな言い方の人はまずいません。もしそういう自己紹介をしても、人は興味を持ってくれないでしょう。 自分が何もしないでも生きていける。だけど、その代わり自分が何者でもなくなってしまう。それがニューヨークなんです。「あなたは何をしてるんですか?」と聞かれて「私は○○をしています」と、パッと答える人が、ここではやっぱり多いですね。

 

謙虚さは美徳じゃない

でも、自分が何者であるかを言えない最初の1年くらいは、もどかしい気持ちがありました。「私は自分をどう紹介したらいいんだろう?」って、ここに来てすぐに思ったんです。例えばこれが旅行だったら「私は日本から来ました」でいいんだけど、いざ人から「こちらが松尾公子さんです」と振られたときに、私は何者かというのを自分で紹介しなければいけない。

それがここに来てすぐに自分が気づいたことで、それからは一つ一つ、実績を作っていこうと思いました。自分で実績を作れないうちは、自分で自分を説明できないからです。でも私は日本でちゃんとやってきたんだという自信もあったので、その勢いそのままに、ここニューヨークでもどんどん実績を作っていくしかない、と思いました。

それに日本だと、「今日、すごく良い服着てますね」と人から褒められても、みんな「そんなことないですよ」とか言うじゃないですか。ああいうのもまずニューヨークにはないですよね。ニューヨークだと、男の人から「キレイだね」とか言われたら、ニコッと笑って「サンキュー!」って言わないとね。「そんなことないです」なんて言ったら「アナタ何言ってるの?」って思われますよ。

そういうのと同じで、「あなたはどんな人なんですか?」と聞かれた時に「私は全然、まだまだ大したことないです」なんて謙虚なことを言ってたらダメなんです。

 

良いところを残しながら、変えていってもいいんじゃないかな

ハーレムは今、すごく変わってきています。壁画もずいぶんなくなったし、昔からのお店もどんどんなくなってきています。再開発でコンドミニアムやスーパーができて、便利にはなってきています。その上、住む人が変わってきてるから、周りの店も変わってきてますね。オーガニックの食材を扱うお店、インターネットカフェ、キレイなお花屋さん・・・お店が変わると、今度は文化も変わってきます。だから今、ハーレムは本当に変わってきてるんです。

*ハーレム写真館・・・こちらをクリック!

ハーレムには良い建物もあるけど空き家もある。じゃあその空き家を、この先何十年も残していいのかという話になって、結局そこには商業ビルが建ったり、安売りのスーパーができる。そうなると暮らしは良くなるでしょう。

だけどそういう環境が好きだったら、アッパーウエストサイドに住めばいいじゃないか、というのが私の本音です。ハーレムを便利にしていくには、ただ資本を投入して、どこにでもあるチェーン店を作るんじゃなくって、この街の良いところを残しながら、変えていってもいいんじゃないかな、と思うんです。
私はこれからもハーレムに住み続けます。ここに住んで、この街が変わっていくところを上手く日本の人たちに伝えながら、自分でもその変化を見ていきたいと思っています。

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松尾さんにとって、ニューヨークやハーレムって何ですか?

ハーレムは、音楽ですね。 音楽が普通に街にあるところ。 ニューヨークは、いろんな人がいるところ。
でも、それがいいところ。
「こうでなければいけない」とは、誰も言いません。

 

松尾さん関連リンク

トミー富田ドットコム:http://tommytomita.com/
トミーズハウス:http://harlemtour.fc2web.com/
ハーレムツアー:http://tommytomita.com/tourmenu.html
ブラックハーレムツアー:http://www4.pf-x.net/~harlemtour/
ハーレム・ジャパニーズ・ゴスペル・クワイア:
http://harlemtour.fc2web.com/gospelwork.html

 

My Eyes Tokyo

Interviews with international people featured on our radio show on ChuoFM 84.0 & website. Useful information for everyday life in Tokyo. 外国人にとって役立つ情報の提供&外国人とのインタビュー

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