室井萌さん

インタビュー&構成:徳橋功
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Moe Muroi
国籍問わないママ支援団体代表/シンガー

※写真提供:RMJ

 

ママもパパも誰一人として孤立せず、ちょっとした悩みごとを語り合うことができる – そういう未来があるといいな。

 

 

2024年は、My Eyes Tokyoにとって”ママの年”になるかもしれません。以前ご紹介した、シングルマザーに支援の手を差し伸べる社会起業家の松優莉さんや、”世界中のママが相談し合い支え合う場所”をオンラインで作ったウクライナ人ママ起業家の白石エリンさんに続き、今回はこの方をご紹介します。日本生まれ日本育ちでありながら、16もの国々から日本に来て子育てをしているママたちが情報交換し合い、何でも話し合える場所をリアルに作った、ご自身も一児のママである室井萌さんです。

私たちは室井さんが中心となり運営する、東京都葛飾区に拠点を置く”RMJ”(Relaxing Place for All Moms in Japan:日本の全てのママたちの憩いの場所)を、普段お世話になっている国際的平和団体”Global Peace Foundation Japan”のスタッフさんから教えていただきました。フィリピンご出身の彼の奥様がRMJさんの活動に参加しているとお聞きし、しかもメンバーさんたちの国籍が非常に多岐にわたると知り、RMJさんに興味を持つと共に、それを立ち上げた運営者さんの情熱やエネルギーに触れたいと思いました。

実際にお会いした室井さんは、ほわっとした優しい空気を身にまとった女性。その日開かれていた、ちょっと早めのお花見会に姿を見せると、あちこちのママたちから「萌さん!」と親しみを込めて呼ばれていました。「強いリーダーに憧れるんです。私は本当にダメダメなので」と謙遜する室井さん。しかしNPO法人化に向けて動く今、理想の未来を掲げ仲間たちと向かうその姿は、まさに真のリーダーたるものでした。

*インタビュー@青戸(葛飾区)

 

我、外国人支援グループに非ず

現在、私たちRMJには日本人・外国籍合計約60名のママたちが参加しています。ママの国籍だと日本、イタリア、ウクライナ、エチオピア、韓国、コロンビア、台湾、中国、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、ベネズエラ、モンゴル、ルワンダなど16ヵ国・地域。パパの出身国・地域も含めるとその数は18くらいに上るのではないでしょうか。

私たちは、お花見会などママたちが集まってリアルに情報交換し合う場を提供していますが、事情によりそのようなイベントに全く参加できないママもいます。それでも「コンロが壊れた」とか「皮膚科の女医さんを探している」などの相談事が生じた時、主に私に頻繁に連絡をくださいます。また離婚してシングルマザーになってしまった外国籍ママには、私たちがお世話になっている団体が運営するフードパントリーを紹介し、その利用のための登録を私がお手伝いしました。他にも在留カード更新時の銀行への届け出、各種申請書の区役所への提出、健康診断などにも付き添います。私たちは彼女たちにとって、いわば”ライフライン”のようなものですね。

このように言うと、日本人ママが外国籍ママをサポートしているように思われるかもしれません。確かに日本人ママが中心となって保育園や幼稚園、小学校のガイドなど、子育てする上で必要な情報を英訳し、外国籍ママに共有します。でも私たちは、外国籍ママを支援するグループではありません。”外国籍ママと日本人ママがお互いに助け合うグループ”です。いろんな情報を英訳した後の文章チェックは、外国籍ママにしかできないことだし、それ以外にも外国籍ママが持っている情報を日本人ママと共有することも頻繁にあります。

日本人が外国人を助ける場面は、言葉の面でのサポートなど皆さんにも想像しやすいと思います。確かに日本人メンバーは「外国人を助けたい」という思いを持ってRMJに入ってきてくれますし、外国人メンバーもそれを期待しているように見受けられることがあります。ただイベントを例に挙げると、日本人メンバーが企画し、それに外国人メンバーが参加するだけで終わるのではなく、国籍関係なく一緒に作り上げていくグループであってほしい。外国人メンバーにとっては、企画者になることで他のメンバーとの日本語でのやり取りが増え、負担に感じることが多くなるかもしれません。でもそれを通じてより他のメンバーと仲良くなるという体験を、ぜひ外国人メンバーにもしていただけたらな、と思っています。

実際、もともと私には「外国籍ママたちを助けたい」という思いはありませんでした。あったのは「彼女たちと友達になりたい」という思いだけ。お困りごとへ相談受付や解決は主に私の担当ですが、友達に対して行うような感覚です。それに”助ける”と言うよりも”必要な情報をシェアし合う”と言った方が、私たちの現状に合っている。日本に住んでいる限り、日本人も外国人も皆地元のスーパーに行くし、皆地元で子育てをしますよね。だから国籍関係なく知っている情報をシェアし合い、助け合う関係を作っていきたいですね。

 

孤独に悩む外国籍ママ

私自身、海外で暮らした経験は一切ありません。それどころか、海外旅行に初めて行ったのが30歳の時だったくらい、日本にどっぷり浸かって生きてきた人間です。ただ全く海外に無縁だったわけではなく、カナダに私の伯母がいます。私が子どもの頃に彼女が家に送ってくれた英語の教材を、父の勧めで読みました。その父は演劇をしていたのですが、彼の舞台で流していた洋楽を好んで聴くように。それらの習慣が私の英語スキルを上げてくれました。

そんな私は、世界各地をドライブすることが大好きな夫と結婚。子どもが生まれた頃、この街に引っ越してきました。ここには0歳から就学前のお子さんやその両親の交流の場である”子育て支援センター”という施設があり、偶然にもそこに妹が勤務。彼女から「日本語が話せず友達ができないことに悩んでいる外国人ママがいる」と言われました。さらに聞くと、その人は支援センターの利用者のご友人とのこと。利用者さんは「スタッフさんで誰か英語を話せる人がいれば、彼女に”ここに来てみなよ”と言えるのですが・・・」とぼやいていたそう。それを聞いた妹は「私の姉(※室井さんのこと)なら英語が話せます!」とその人に伝えたのです。

妹を介してフィリピン出身のそのママと出会った私は、お話を聞きました。そして彼女は言ったのです。「自分の部屋のベランダから、他に外国籍の人がいないか探していた」と・・・

このあたりを歩いていると、外国籍のママたちを頻繁に見かけます。実際に私のお隣さんはモンゴル出身のご家族です。だから「同じように孤独を感じているママたちが、他にたくさんいるんだろうな」と考えたし、日本人も外国人も関係なく、ママもパパも子どもたちも交流したり一緒に遊んだりして友達になれたらすごく良いだろうな・・・と考えた。それがRMJの土台です。その後私は、フィリピン出身ママを、私のお隣さんであるモンゴル人の友人で英語が堪能なモンゴル人ママに繋ぎました。

ただ自分でグループを立ち上げるつもりは、当時はありませんでした。私は葛飾区の社会福祉協議会が運営するボランティアセンターに聞きました。「外国籍のママたちのサポートをしている団体はありますか?」。もし他にあるなら、そこを紹介しようと思ったのです。しかしセンターさんからの返事は「No」でした。

 

社会が認めたママ支援

それなら自分たちで作るしかない – 私はセンターさんに団体の立ち上げ方を聞きました。その後センターさんからのメルマガに載っていた、コープみらいさんからの助成金のご案内を見た私は考えました。

「私たちがやろうとしている活動は、社会から必要とされるものなのだろうか?」

それを知る目的で、私は助成金を申請。自己満足と見做されるのではないか – そんな不安が脳裏をよぎるも、申請は通過。コープみらいさんから後押しをいただけた、それはつまり「真剣に活動せよ」とお尻を叩かれているのだと感じました。こうしてコロナ禍の真っ只中だった2021年3月、私は”Relaxing Place for All Moms in Japan”(RMJ)を立ち上げました。

「いろんな国籍のママを集めてママ会やろう!」そう思い、参加者を募るチラシを作り、葛飾区内にあるコープみらいさんのお店や団地に貼りました。すでに私が出会っていたフィリピン出身ママやモンゴル出身ママ以外に、チラシをご覧になった台湾出身のママもRMJに参加。そこへ英語でのコミュニケーションに興味があったり、海外在住時に現地の人たちに助けてもらった経験を持ったりする日本人ママが合流。団体立ち上げから約5ヶ月後、初の多国籍ママ会を開きました。それ以来、定期的に様々なイベントを開いています。

※写真提供:RMJ

 

世界のママたちが喜ぶ環境をみんなの手で

RMJを立ち上げて以来、最近まで私一人でイベント運営にまつわる業務を全て行っていました。そのためママ一人ひとりを十分にケアすることができず、ただママたちが自発的につながることに期待するだけでした。そのためイベントに参加したものの、その場の雰囲気に馴染めなかったり、友達を作れなかったりして、二度と戻ってこないママがいました。ただ次第に、初めて参加するママに積極的に話しかけようとする意識が常連のママたちの中に芽生え、徐々に誰もが参加しやすく、居心地の良い場所を提供できるようになりました。

やがて外国籍のママたちから「以前は地域内で行われていたハロウィンパーティやお花見ピクニックに参加したくても、友達や知り合いがいなかったからできなかった。でも今は、RMJの仲間とそれらに参加できるようになったんです」との声が聞こえるように。それが私にとって何よりも嬉しかったですね。思えば私自身も人見知りで、子育て支援センターに行けばママ友ができることを知っていながら、行くのを躊躇して家に引きこもっていたことも。そんな私だからこそ、彼女たちの気持ちを少なからず理解できると自負しているし、だから私はこの活動に取り組んでいるんでしょうね。それにイベントに参加している子どもたち同士も、国籍や人種に関係なく仲良くなっています。私たちが作る環境が子どもたちに良い影響を与えることができているように感じられて、とても嬉しいです。

楽しさや喜びのあまり夢中で突っ走る一方、私が一人で業務を抱え込みがちに。そのため最近、精神的に病む一歩手前まで行ったこともありました。私は正直に「ごめんなさい、今体調が良くないので、仕事を割り振りさせていただきたいです」とママたちに伝えました。こうして運営チームが出来、男性も迎え入れ、RMJの方向性について話し合いました。このRMJには、小学校入学についての情報をランドセルメーカーに至るまで細かく調べ上げ、それらをもとに独自に英語版のガイダンスを作る人、防災関連資料などの英訳をチェックする外国籍ママ、他にもデザイナーやカメラマン、大学の先生、企画運営が得意な人、MBA保持者など「これをやってほしい!」と言えばだいたいやってくれる”シゴデキ”(仕事ができる人)が揃っています。彼女たちのスキルを活かしながら、一方で各個人の”友達作りスキル”に依存しない、より組織的な業務体制の構築に向けて、今もミーティングを重ねています。

 

”内なる差別心”と向き合う

神奈川県からわざわざ葛飾区までいらして私たちの活動に参加してくれている人がいます。偶然にも妹が横浜市内に住んでいるため、横浜にもRMJを立ち上げる方向で現在進んでいます。また葛飾区内でも、私が住む地区のママたちは活動に多く参加し、また私以外のママも積極的に相談事などに応じる一方、他の地域からの参加者が少ないという現実があります。それをどのように解決するかが、今後の課題ですね。

先ほど言ったように、私たちが困りごとを解決したり、相談に乗ったりするのは”友達に対して”行う感覚ですが、逆に言えばお互いに友達になるくらいの関係性を築かなければ、それらを行うことが難しいということ。特に私との関係がそれほど深くないママは、困っていることがあっても私に相談することを躊躇することもあるようです。また反対に、私との関係が深い人とは、何時間でも無償で付き添うこともあります。そのような状況を打破したいと思い”どんな人からのご相談にも応じる一方、解決まで一定時間以上かかる相談事については有償で受け付ける”ということも考えました。しかしどこまでを無償で受け付け、どこから有償で受け付けるか、その線引きに悩みました。だから今のところは私がママたちと友達関係を築き、気軽にご相談いただける環境を作ることを心がけています。

外国籍のママたちに話を聞くと、彼女たちは「自分は外国人である」ということを強く意識していることが分かりました。それゆえに「電車の中では大きな声で話さないようにしよう」とか「たとえ自分が痴漢に遭ったとしても、外国人だというだけで、相手の男性ではなく自分が警察に連れていかれる可能性がある」と言っています。

RMJメンバーからはそのように見られなくても、一歩グループを外れたら”外国人”として見られる – その現状はもちろん変えていきたい。でも差別や偏見は、あからさまなものからマイクロアグレッション(自覚なき差別)まで、私を含め全ての人間の中にあり、今すぐ無くせるものではありません。”人は誰でも差別や偏見を持っている”という前提で活動を続けながら、ママたちが触れ合う中でお互いに自らの気持ちを率直に伝え合い、学び合えたらいいなと思います。

 

ママは”才能あふれる強い人”

今もなお孤立するママが多いのが現実だし、そういうママが一人でもいたら、自分は嫌です。私の目指す未来は、自分の団体の名前にあります。”Relaxing Place for All Moms in Japan”。つまり日本にいる全てのママ – もちろんパパも – が誰一人として孤立せず、友達を作り、育児や暮らしでのちょっとした悩み事を語り合うことができる。子育てする上で、そういうママ友の存在が何よりも大事だと私は思っています。だからそういう未来があるといいなと思うし、それが私の願いです。

ママは一人ひとり違う。当たり前のことだと言われそうですが、国籍が絡むとどうしても同じように見てしまいがちです。日本人ママ、中国人ママ、フィリピン人ママ・・・でも彼女たちは一人ひとり違います。そしてもうひとつ同じように見てしまいがちなのは、”ママ=弱い””ママ=何もできない”という思い込みがあるからかもしれません。でもどのママも一人ひとり、異なるけど何かしらの強みを持つ、強い存在です。それをママ自身が自覚する環境を作りたい。その最たるものが言語スキルです。

将来的には、外国語話者であるママが子どもと一緒に健診を受ける時にRMJのメンバーが通訳として付き添ったり、これからパパやママになる人たちに向けた”パパママ学級”の多言語版を区と共に企画・開催し、RMJのメンバーがその通訳として参加できるようになれば良いですね。それらを行うことで、私たちは寄付に頼らずに活動費を得られますし、RMJメンバーたちもそれらに従事することで自信を持つようになり、この日本社会で輝くことができるでしょう。

RMJを立ち上げるきっかけとなったフィリピン出身ママ、エンジェルさんと。室井さんは今もアシスタントティーチャーとして、エンジェルさんが開く英語教室をサポートしている。

 

そして私自身も、やりたいことをやりながら社会に貢献しようとしている姿を、ママたちに見せていきたい。そして孤立するママを一人も残さない。そのために、これからも頑張って活動に取り組んでいきたいと思います。

 

室井さん関連リンク

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