相手を知り己を知ればグローバルコミュニケーション危うからず!
取材&構成:徳橋功
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アメリカで幼少期から青年期を過ごし、日本と海外の架け橋として製薬業界を中心に活躍してきた経験を持つExecutive/Leadershipコーチの櫻木友紀さん。日本企業が海外企業とのやり取りに苦心する様子を歯がゆい思いで見てきました。「英語力が問題なのだろうか・・・」しかし日本で子育てすることで、英語以外の”何か”にその原因を見出したと言います。さて、それは一体何でしょうか?
櫻木友紀
小学校4年生から8年間を米国で過ごす。東京理科大学卒業後、日系製薬企業にて欧米向け医薬品開発に従事。退職し別業界を見るも、身内の病気を機に製薬業界に復帰し外資系製薬企業へ。医薬品開発業務と並行し500人以上在籍する部門全体の人材育成計画のリーダーとなり、人材育成分野に興味を持つ。
管理職を経験した後、医薬品のグローバル開発の促進を目指し規制当局の国際部門に転職。退職後、キャリアコンサルタントとコーチ資格を取得し2018年に独立。現在、日英のExecutive/Leadership向けコーチング/メンタリングや、組織開発を主軸に活躍中。
※講演「グローバルとの協業において、日本の考え方を伝えるコツ~今年はもっと日本のプレゼンスを高めよう~」(製薬ビジネス研究会主催 2022年1月28日開催)の一部を要約し掲載します。
※櫻木さんコラム「外国籍社員の活躍には早期の支援体制と社外コーチ/メンターが鍵!」
聞く vs 伝える
日本と海外では、伝える側と聞く側の役割に大きな違いがあります。日本では「伝えられたことを正しく理解するのは聞き手の役割」という印象です。そのため「相手がなかなか理解してくれない」「ここまで言えば分かるでしょう?」という不満や「分からなかったけど恥ずかしくて言えない」といった感情が起きがちです。
しかし私は「伝えたことを聞き手が理解するかどうかは、伝える側の責任」だと思っています。聞く側に理解を委ねるのではなく、相手が「なるほど!」と納得できるまで言葉を尽くす意識を持つことが、海外との多文化コミュニケーションにおいて重要です。
日本人の”聞く力”は非常に優れていると思います。例えば学校の様子を見ても、先生からのほぼ一方通行の授業を、子どもたちは忍耐強く聞いて理解し、問題を解いています。「”聞いて理解する力”はあの授業スタイルで鍛えられているのではないか」と感じるほど(笑)しかし一方で、より深く”聴き出す力”はどうでしょうか。「その先はどうなっているのか?」「それを達成することで何が変わるのか?」などと、問いを重ねてより深く聞くという姿勢が不足しているように感じます。
だからこそ海外とのコミュニケーションにおいては、受身的に聞くだけでなく”話す””聴き出す””理解してもらう”など、能動的にアクションを起こすことに重点を置いてほしいと思います。
なぜ? vs どうすれば?
目の前にある課題を達成できなかった時、皆さんはどう思うでしょうか?
日本は「なぜ達成できなかったのか?」と、過去を振り返りその理由を探ろうとする。つまり過去から学ぶ姿勢を持っています。とても大事なことですが、過去を振り返り、反省する時間が長く「じゃあどうするか?」という議論に至らない傾向があるように感じます。
しかしアメリカで教育を受けた場合「何があれば達成できるのか?」に重点を置いて考えます。達成するために必要なものを探そうとする前向きな発想が、教育を通じて育まれるのです。
※櫻木さんの講義で使用されたスライド
上が海外の思考、下が日本の思考と言われています。海外はできるだけたくさんのアイデアを提示すること、つまり”ラテラルシンキング”に価値を置く教育がなされます。
一方で日本は、正しい答えにきちんとたどり着くこと、つまり”ロジカルシンキング”に重きを置かれます。この発想では「正しい答えは1つしかない」と考えがちで、正か誤の2択で終わる。他の答え、考え方を探そうとする習慣が失われます。
1つの答えを導き出し、その根拠を説明することが重要だと言われながら育てられるため「いろんなアイデアを出してほしい」と言われるような、正解がない環境に行くと、逆にアイデアが出せなくなるのです。日本では最近、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの重要性が説かれていますが、日本人が伸ばした方が良い能力はむしろ”ラテラルシンキング”ではないかと私は思います。
また目の前に壁が立ちはだかった時、海外では「壁が突破できるか、やってみよう。失敗したら、その時に”どうやったら乗り越えられるか”について考えよう」と思うのに対し、日本では”壁があるからしょうがない”と言って、早い段階であきらめてしまう。私も帰国後、試してもいない、もしくは過去の1度だけの失敗で「しょうがない」と諦めてしまう様子に驚きを覚えました。海外ではなかなか理解されない”Japaneseしょうがないculture”ですが、これらの違いがあることをまず認識し、相手に対して柔軟な思考を持つことが大事だと思います。
見知らぬ人にオレンジを売る方法
米ニュージャージー州での高校時代、私は吹奏楽部に所属していました。部は年に1回、カナダのトロントや西海岸ロサンゼルスなどで行われる大会に出場します。ここで問題になるのが、その費用です。日本なら、当たり前のように親にその請求書が届くと思います。しかしアメリカでは「自分で自分の旅費を稼ぎ、不足分のみ親に補ってもらう」方法が取られます。
さあ、どうやってお金を得るか?
私の高校で行われたのは、柑橘類の販売でした。それも道端で人々に「オレンジいりませんか?」と言いながら売るのではありません。飛び込みで家々を訪問し、日本円で1箱約3,000円のオレンジやグレープフルーツなどの大箱の注文を取り、その売上から旅費を賄うのです。これが、毎年の恒例行事でした。
この経験を通じて「どう話すと売れるのか?」「利益が出るのはどの果物か?」「他の生徒が回っていない家はどこだろう?」「リピーターになってもらうにはどうすれば良いだろう?」など、様々なことを考えます。
これと似た経験を積めるものとして”チップ制度”があります。アルバイトでも、どのようなサービスを提供すればチップをはずんでもらえるか?良い結果を得るためにすべきことを、子どものころから考えるよう鍛えられます。またアメリカでは、小さいころから親や先生から「この目標に到達するために、あなたは何をするべきだと思う?」など常に問われます。このような”コーチング”的コミュニケーションを通じて自分の頭で考える癖が身についているため、ゴールの前に壁が立ちはだかっても「なぜ無理か」ではなく「どうしたら飛び越えられるか」の視点で考えます。
アメリカの各企業には、このような経験を積んで育った人たちが数多くいると想像してみてください。そのような人たちと仕事をしたり、その人たちに日本に興味を持ってもらうためには、色々なアイディアを持ち、言語化できることが求められるのです。
言わなくても通じる社会 vs 言わなければ通じない社会
日本では「出る杭は打たれる」と言われますね。でもアメリカでは「出ない杭は存在しない」です。「どうやって違いを出すか」「どうやったら目立たせることができるのか」「どうやったら自分はユニークな存在でいられるのか」「どうやって自分のことを伝えていけば良いか」などを常に考えるのがアメリカ的思考だと思います。
このような環境の中で日本人の私は、とにかく自分の考えをまとめ「どうやったら相手に伝わるか」「どうやったら相手が振り向いてくれるか」を2手、3手先まで考えながら、たくさんの言葉を使って必死に伝えていました。”帰国子女”は羨ましがられることが多いですが、とんでもない(笑)。常に高速度で、休むことなく頭の中を回転させ、自分の考えを言語化して伝えなければならず、とても辛かったのも事実です。
そんな日々を経て日本に帰国した私は、まるでぬるま湯に浸かっているような不思議な感覚に捉われました。顕著な例が友人たちとの雑談です。私が「こういうことってあるよね」とたった一言言っただけで「あ、分かる分かる!」と返される。「これしか言わなくて、なんで分かるの?本当に分かっているの?」と拍子抜けしたと同時に”言葉が少なくても何となく理解しあう社会”だと感じました。
グローバルコミュニケーションは逆です。”自分からアプローチする””あらゆる手法を使って伝える”というマインドを持つ必要があります。
※櫻木さんの講義で使用されたスライド
世界で日本のプレゼンスを高めるために
「日本のファンを増やす!」これに尽きると思います。
私がファイザーに勤務していた時、いろいろな薬剤の開発を担当していました。ある薬剤について海外法人と協業する時、最初にお互いの主張の背景を理解し合うまでは押し合い問答になったりと時間を要するのですが、日本の的確さ、正確さ、高い達成度がひとたび理解されると、別の薬剤開発で共に働くときにすごくやりやすくなりました。この時間の短縮と積み重ねが大切と思います。
このような状況をつくるために、必要なことがいくつかあります。
1. グローバルの一員として発言することを忘れない
海外法人との会議で、グローバル開発および戦略に対しては全く意見を言わず、日本法人に話が及んだところでようやく発言するという光景を目にしました。そこで、敢えてグローバルに関しても意見を言い、アイデアを出してみましょう。難しく考える必要はありません。「それは素晴らしい」「それは良いと思うよ」だけでもOK。グローバルの戦略に関心を持っていること、グローバルの一員であることをアピールするためにも、意見やアイデアを伝えることが大切です。
2. 日本への理解者を増やす
アメリカ時間で行われる、アメリカ本社主導の会議においても、日本の状況について説明してくれる人をアメリカ法人内に確保するべく動いていきましょう。日本人が持つ”1:1の場で親密な関係性を築くことができる”という利点が、ここで生きてくると思います。
3. 自信を持つ
大きい市場規模。スタッフのミスが少なく仕事が的確。製品の品質も大変良い・・・このような特徴を日本は持っています。「これらの部分で日本がグローバルに貢献できます」と自らどんどん提案するのです。一度だけでは、聞く耳を持ってもらえないかもしれません。しかし何度も試みるうちに日本の特徴を認識してもらえ、日本の存在価値が上がっていきます。
4. 自分たちが周りからどう見えるか意識する
自分が考えるそのままの自分像ではなく”周りにイメージしてほしい自分像”を意識しながら発言する癖をつけてみましょう。
もし皆さんが小さな声でボソボソ話すと、自分だけでなく、自分たちの作る製品についてまでも自信が無いように相手に印象付けてしまいます。
自分たち自身や自分たちの国、自分たちの製品がどのように思われたいのかを意識しながら発言するよう意識してみてください。
時代は変わり、日本だけで完結する仕事は減ってきました。
さらに、このコロナ禍でオンライン化が進み、海外のパートナーと手を組むようになった企業や、海外顧客を視野に入れた企業も増えているのではないでしょうか。
日本が世界に対して貢献出来ることはまだまだ沢山あると思っています。
また、日本の感性、アイディアを活かせば、あらたなビジネスチャンスも増えるのではないかと考えます。
多文化の中でのコミュニケーションのコツを掴むことで、いろいろな企業がより高く羽ばたいていって欲しいなと思います!
櫻木さん関連リンク
Website:naturalstep-sakuragi.com/
LinkedIn:linkedin.com/in/yuki-sakuragi/
Facebook:facebook.com/yuki.sakuragi.career/
インタビュー記事(キャリコンプレス):caripo.jp/press/interview-sakuragi-yuki1
METコラム「外国籍社員の活躍には早期の支援体制と社外コーチ/メンターが鍵!」:www.myeyestokyo.jp/58288
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